『イナズマイレブンGOギャラクシー』第8話「九坂の二つの顔」の感想 【サトちゃんと言っても薬局の前のゾウじゃないよ】

 恒例のアニメ感想文、今回は『イナズマイレブンGOギャラクシー』第8話「九坂の二つの顔」を観ての感想を書く。二重人格と見まごうほどに極端な性格の、ワルの不良と呼ばれた男の意外なほどにナイーブな過去が描かれる。彼の二つの顔は、なぜ定着してしまったのだろうか……?



 当ブログは、『イナズマイレブンGOギャラクシー』を視聴しての感想を、自分なりに面白いと思えるよう、コミカルにそしてシニカルに描く事をモットーにしています。その事に不快を感じる方はご覧にならないよう、お願いします。


  • 前回の感想は、

『イナズマイレブンGOギャラクシー』第7話「楽しいサッカーをしよう!」の感想 【瞬木に必殺シュート誕生!未来のストライカーの風格!】
 をご覧ください。

  • それ以外の感想は、

ここをクリック。

 で、一覧表示されます。

 で、一覧表示されます。

 で、一覧表示されます。

 少年サッカー世界大会「フットボールフロンティアインターナショナル(通称FFIV2)」アジア予選に臨む【イナズマジャパン】は強敵オーストラリア代表【ビッグウェイブス】を撃破し、2回戦を突破する。

 監督の黒岩流星(CV:佐々木誠二)が選出した時点では国内の1チームでしかなかった帝国学園にもボロ負けし、素人集団としか思えなかったイナズマジャパンが韓国代表、そしてオーストラリア代表を破るというまさかの快進撃を見せたのだ。


 アジア地区予選のトーナメント表を見ながら、キャプテンの松風天馬(CV:寺崎裕香)は次の準々決勝に思いを馳せる(2回戦勝ち抜けでベスト16ということは、32チーム出場ということが分かる)。あと3勝すれば地区予選突破だ。天馬は拳を握りしめて、世界大会出場を強く意識する。



   オープニング



 勝ち抜くことでチーム内の本気度も高まる。最初はやる気のなかった素人集団も練習に向け檄を飛ばす天馬の言葉に強く返答する。

 天馬はサッカーに慣れてきた頃の彼らに、より実戦的な練習を行うことを提起する。オフェンスとディフェンスに分かれ、実戦を想定してプレーする練習はそれぞれのポジションの能力を高めることに役立つ。試合中にどこにパスを送れば良いのかや、味方の動きに応じてどう行動すれば良いのかなど、チームとしての連動性の向上にも有用な練習である。



 これにはサッカー経験者がバランスよく分かれたほうがより効果的だ。天馬は神童拓人(CV:斎賀みつき)にディフェンス側を任せ、自身と剣城京介(CV:大原崇)はオフェンス側に回る。他にオフェンス役として瞬木隼人(CV:石川界人)、野咲さくら(CV:遠藤綾)、九坂隆二(CV:岡林史泰)を指名する。前回の経緯からか、さくらちゃんが異様に前向きでビビる。


 残りの5名は神童と共にディフェンス役だ。キーパーの井吹宗正(CV:鈴木達央)はペナルティエリア内のプレーとなるので、基本5対5という形式になる。神童はこのシリーズが始まって以来ディフェンシブな行動が目立つし、防御役に回るのは納得なんだけどこれだと井吹と同じチームになっちゃうんだよね。またひと波乱ありそうな気がする……。


井吹「絶対止めてやる!」

 前回のオーストラリア戦で必殺キーパー技を会得した井吹は自信満々の表情だ。同じくオージー戦で必殺シュートを編み出した瞬木との対決は楽しみ。どっちが勝つのか「ほこ×たて」みたいなノリだが。



 天馬のキックオフで実戦形式の練習が開始される。まずは瞬木にパスを送る。立ち向かうのは今のところサッカー熱にもっとも燃えている鉄角真(CV:泰勇気)だ。瞬木はサッカーを始めた頃には足元に収めておくことも難しかったサッカーボールを巧みに操って切り返し、さくらにパス。



 さくらは新体操で鳴らした抜群のジャンプ力を駆使して空中でそれをトラップする。目立ちたい精神もあるのだろうけど、やらんでもええ前方2回転宙返りを決めてキャッチするさくらはやはり絵になる。


 着地するさくらを待ち受けていたのは皆帆和人(CV:代永翼)だったが、さくらはまたも新体操的な動作で苦もなく皆帆を抜き去ってしまう。この辺り、素人の中でも上達の早いものとそうでないものとの差が出て来ている感がある(概してスポーツ経験者はサッカーの上達も早い)。皆帆くんは読みは鋭いのだけど、まだ脳内の理論に身体がついて行っていない感じ。

 開始早々良い動きを見せる瞬木とさくらにすかさずエールを贈る天馬。天馬のキャプテンとしての激励も彼らに好影響を与えることは間違いない。

 さくらは天馬の激励を受け、もっと上手くなることを心に期しつつ、ここで「私が私が」というワガママモードになることもなく天馬にパスを返す。そのチームプレーに徹するさくらの様子を見て、マネージャーの空野葵(CV:北原沙弥香)は同じくマネージャーの水川みのり(CV:高垣彩陽)に話しかける。



葵「さくらさん、変わりましたねぇ」


 葵はさくらが本来の元気さに加え、これまで抑圧されていた天真爛漫(てんしんらんまん)な明るさまで表出されていることを敏感に感じ取っていた。みのりは無愛想ながらもその意見に賛同する。

 チームが順調に仕上がっているというのに、監督の黒岩はそれを見届けようともせずに立ち去る。マネージャーというより彼の私設秘書のような態度を貫くみのりもそれを追う。2人の不可思議な姿には、それを見送る葵も目を丸くする。



 そんな舞台裏の様子に気づくことなく、実戦形式の練習は続く。皮肉にも黒岩が去ってからディフェンス側にも良い持ち味が発揮され、練習は実に内容の濃いものとなっていた。


皆帆「こっちだこっち!」
真名部「こっちじゃ分かりません! もっと正確に言って下さい!」

 そんな中、やっぱり独特の味を出す皆帆と真名部陣一郎(CV:野島裕史)の凸凹コンビ。いや、どっちもまだまだだから凹凹(ボコボコ)コンビか?


 せっかくの真名部のキープも連携が上手く行かず、ボールをさくらに奪われてしまう。真名部は取られたことを皆帆の指示が悪かったことに転嫁する。この2人は気が合うのか合わないのかまだよく分からない。

 だがそれを励ますのが人の良いハツラツ野郎の鉄角だった。2人の微妙な関係など頭にないシンプル脳筋野郎の鉄角は奪われても奪い返せば良いとポジティブに語る。仲間のミスをドンマイと受け流す鉄角がなんだかカッコ良い。筋肉質でちょっと背が低いところなんかも含め、鉄角は雷門中での車田剛一(CV:野島裕史)的なポジションだ。

 鉄角にそう言われて真名部と皆帆もお互いに責任をなすり付ける愚(ぐ)に気づき、やや気恥かしそうに同意する。


 そういったチーム内の気持ちのつながりを見て、(この練習中は彼らの敵にあたる)天馬も笑顔になる。チームが仲間意識を持ってまとまりつつあることを天馬は肌で感じていた。


天馬「行けるよ、このチームなら!!」



 真名部からボールを奪ったさくらが左サイドの九坂にパスを送る。非常にイージーなパスだったのだが、九坂はそれをトラップミスしてしまう。

 味方のミスをドンマイと励ますのが大事なのは先ほどの鉄角の対応を見ても明らかだ。天馬に励まされた九坂は頭を掻いて恐縮するが、その直後に真剣な表情を浮かべる。どうやら九坂にも何か悩み事がありそうな描写だ。



 そして夕暮れ時を迎える。それはいつもは練習終了タイムでもあるのだが、今回の熱が入った練習はまだ終わらない。天馬からパスされたボールをシュートする剣城。

 必殺シュートではないものの、エースストライカーの力が入った本気のシュートがゴールを襲う。これまで一度も剣城のシュートを止めたことがない井吹は今度こそ止めるとばかりに気合いを入れる。

 井吹はパンチングでそのシュートをゴールマウスからはじき出すが、その代償としてゴールポストに肩をしたたかに打ちつけてしまう。心配して鉄角が駆け寄るが、井吹は痛みをこらえ、それでいて嬉しそうに笑みを浮かべる。練習であってもゴールを割るぐらいなら身体を痛めてしまう方がマシだと言わんばかりの井吹のその信念は、彼と確執の深い神童にもある種の感慨を抱かせずにはいられない鬼気迫る気迫があるはずだった。



 だが神童はやはり何も言わずに立ち去ってしまう。その態度から神童は依然として自分を認めていないとこに思いが至った井吹は悔しそうに顔を歪める。肩の痛みよりも神童から無視される心の痛みの方が強いと言わんばかりに……。



 飛行機雲が夕暮れの空に二筋のラインを引く時、ようやく今日の練習は終わりを迎える。明日に備えてゆっくり休むよう語る天馬の声を遠くに聞き、九坂はひとりグラウンドに忘れ去られたかのように転がるサッカーボールを見つめる。



 タオルで顔を拭く天馬にドリンクを差し出す葵。マネージャーの目線からもこのチームが良くなっていると感じる葵はそれを天馬に伝える。天馬も手応えを感じていることを明かし、メンバーたちがサッカーを楽しんでいることをその理由に挙げる。

 天馬はこのメンバーなら世界を相手にしても戦えるという確信を抱いていた。


神童「それはどうかな?」


 そんな天馬たちの夢あふれる構想に水を差すのは、神童であった。神童の厳しい審美眼からすれば、彼らは多少できるようになったとはいえ、やはり素人の域を超えてはいないというのだ。

 天馬は瞬木とさくらの活躍があってこそ韓国とオーストラリアに勝利できたことを挙げ、さらに井吹も必殺技を獲得してゴールを守ったことを述べ、攻守に渡って彼らが素人の域を越えつつあることを強調する。

 だが神童は譲らない。天馬の主張を認めつつ、真名部と皆帆、森村好葉(CV:悠木碧)、そして九坂という今日の練習でも他のメンバーに遅れを取った選手の名を挙げて反論する。

 天馬は再反論しようとするが、神童の刺すような視線に射すくめられる。



「天馬、世界はそんなに甘くないぞ!」


 そう言われてしまっては返す言葉を失う。落ち込む天馬を尻目に、神童は先に引き上げていく。



 合宿所に夜の帳(とばり)が訪れる。自室のベッドに横たわり、天馬は神童が強い調子で今のイナズマジャパンを否定した言葉を思い返す。上手く回っている今のチームに愛着を深める天馬は、自らの理想と神童が語る現実との板挟みにあった心境だった……。


 落ち着かなくなった天馬は外に向かう。屋外の暗がりに何かが動くのを認める。それは一心不乱にサッカーボールを壁打ちする九坂の姿であった。



「七瀬、五反田、六本松。お前らのことは必ずこの俺が……!」


 九坂は誰かの名前を呼びながら、誰にも気づかれることなく必死の形相で特訓を続けていた。天馬はそれを呆然と見つめるが、素人のはずの九坂がサッカーに勧誘された理由はおそらく先ほど挙げた名前の人物たちに関係があるのだろう。



 一夜明け、黒岩はミーティングルームに集ったイナズマジャパンメンバーに、準々決勝で戦う相手が決まったことを告げる。相手はサウジアラビア代表【シャムシール】だ。



 これがシャムシールのイレブンだ。イスラム圏ではヒゲが男の嗜(たしな)みとはいえ、後ろのデッカイ奴はやり過ぎだろう。どうひいきめに見ても少年サッカーの域を逸脱している! キャプテンのサイード・アシュラフ(CV:高口公介)もヒゲキャラだが、こっちはまだギリで許せる範囲。個人的には前列左のターバンを被(かぶ)り崩したような選手とその横の青髪の選手が気になる。女性っぽく見えるんだけどイスラム圏だと肌の露出は禁物だし、男性と同じチームに入るなんてあり得ないから違うのかな。ちなみにチーム名のシャムシールとはトルコ風の湾曲(わんきょく)した剣のこと。RPGでよく出てくる剣の名前「シミター」と同じ意味。


 個人技はもちろん、組織で襲いかかるスピードと破壊力はアジアでも屈指の強豪だと、データを見るみのりは語る。敵の弱点を的確に突いてくるその戦法から「アラビアの獅子」と恐れられているという。強化されたイナズマジャパンにも九坂をはじめとした穴があるわけで、そこを突いてくるという展開になりそうな話だ。


 「アラビアの獅子」という異名に、鉄角はより闘志を燃やす。黒岩は腕組みをしたまま、サウジアラビア戦に向けての最後の調整を行うことを一同に告げる。そして今日は解散してあとは自由行動、選手たち個々の判断に委(ゆだ)ねる。

 試合が目前に迫っているというのに練習を強制しない黒岩の態度に、天馬と神童、剣城の3人は驚く。黒岩はこの機会にサッカー以外の懸念を片付けておけと他人事のように告げる。黒岩は選手たちを直接スカウトした関係から個々の事情も把握している訳で、言わんとすることは分からないでもないのだが……。



 自由行動=休みと受け取った皆帆は久しぶりに羽を伸ばせるとその声も浮かれる。真名部も疲労の回復のために完全休養すると語る。彼らとは身体の鍛え方が違う鉄角はロードワークに出かけることを宣言する。「アラビアの獅子」という新たな敵の存在が現実感を帯び、勝負師の血が騒ぐのだろう。

 兄弟愛が尋常ではない瞬木は家に帰って久しぶりに家族の親睦(しんぼく)を深めると言って去っていく。兄弟愛が尋常ではないとはいえ、合宿が続く中、瞬木の態度が一番現実的な気もする。


 好葉はさくらに声をかけられ、サッカーガーデンのショッピングモールに行くよう誘われる。心底嫌そうな表情を見せつつ、断ることが出来なさそうな好葉は同意する。本当は行きたいところがあったんじゃないかなぁ? 好葉がシンパシーを感じている動物園のフクロウのところとか。


 どこかへ向かおうとする剣城に声をかけるのは井吹だった。


井吹「練習に付き合え!」


 ものすごく自分勝手で図々しく傲慢(ごうまん)なその物言いだったが、剣城はそれを二つ返事で受ける。嬉しそうなその表情は、剣城も井吹にはチームの一員として頑張って欲しいという気持ちが窺えた。たぶん剣城はお兄さんの優一(CV:前野智昭)の元に行こうとしていたと思うんだけど。彼も兄弟愛が尋常ではないし。


 そして同じくどこかへと向かう九坂を呼び止めるのは天馬だった。天馬は一緒に練習するかと誘う。前日の深夜にひとりで頑張っていた九坂を気遣う天馬なりの優しさだろう。

 だが九坂は笑ってその申し出を断る。それは練習したくないというネガティブな理由では無く、自分のような足でまといに時間を使ってもらうのが申し訳ないという、ある意味さらにネガティブな意味合いのものだった。

 九坂の寂しそうなその背中にかける言葉を天馬は持ち合わせてはいなかった……。



 閑静な住宅街の一角にあるハーモニカ住宅「ひので荘」。そこが瞬木の自宅だった。駆けてきた瞬木は共同の水道で顔を能う弟の瞬(CV:戸松遥)との再会を果たす。

 瞬木は瞬の顔に新しい傷がついていることを目ざとく見つける。瞬はまた喧嘩をしたことを明かす。それは以前のようにいじめられたわけではなく、瞬がおもちゃを隠してしまったことが原因だった。それを聞いた瞬木は弟を叱る。だがそれは弟が悪いことをしたことを諌(いさ)めるという躾(しつけ)から来るものではなかった。


「何をするにも見つからないようにやるんだ!」
「見つからなきゃ勝ちなんだ!」

 まさしく倫理観の欠片(かけら)もない兄弟。教育上、非常に良くない。この発言が「今日の格言」にならなくて良かった。自分たち以外は信用できないという瞬木兄弟だが、この考えは彼ら自身をより孤立させる結果をもたらすことになるだろう。サッカーを通じて彼らのこの性格も変わって欲しいものだ。




 一方、井吹と剣城の休日風景。それはいつもと同じ過酷さで。



 さらに鉄角。ロードワーク中の彼の足は、自然に彼にとって親しみ深い海沿いへと向かっていた。



 さくらと好葉の女の子2人はショッピングへ。ようやく普通のオフらしいシーンなんだけど、当初は好葉ちゃん、あまり気が乗らない模様。


 色々と楽しみ、休日気分を満喫したさくらと好葉はドーナツショップで一息つく。さくらは好葉にどんな条件で雇われたのかを尋ねる。さくら自身は世界最高の新体操チームに海外留学するためという、真名部が以前話した理由を再び述べる。

 国内の状況のレベルが低いと不満を持っていたさくらにとって、海外留学の条件を持って自らの前に現れた黒岩は何よりの福音に見えた。そしてそれを条件にさくらは門外のサッカーの世界に飛び込むこととなったのだ。



 それを聞く好葉の表情は複雑そうだ。ここでは好葉の側のスカウト理由はついにうやむやになってしまう。すごく気になるんだけど、さくらちゃんも自分の話に夢中になってないでちゃんと聞け。



 そして九坂である。彼は以前練習をサボった時のように臨海部の工事現場で仲間たちとたむろっていた。そこにやって来るのは九坂のライバルっぽい不良たちだった。



 こいつらどこかで見た顔だと思ったら、ゲーム版『イナクロ』で出ていたモブキャラだった。


 サッカーの日本代表という立場に収まる九坂をタマ蹴りというつまらないことをやっていると不良たちが嘲笑する。それまで温厚そうな表情だった九坂のスイッチがその一言で入ってしまう!



 その頃合宿所では、次の対戦相手のシャムシールのビデオを見て分析研究する天馬の姿があった。そこに葵があわてた口調で飛び込んでくる。九坂が警察に連行されてしまったというのだ!!
 




 CMまたぎで天馬は驚いてその理由を問う。九坂が街の不良たちと喧嘩したと伝える葵は、かつて帝国学園とのエキシビジョンマッチの際も何かの拍子でキレて暴力的なプレーをした九坂の姿を思い出す。天馬もそのシーンを思い返す。今回も九坂は何かの理由でキレてしまい、喧嘩をしてしまったということが考えられた。



 日本代表メンバーの一人が警察沙汰(けいさつざた)の揉め事を起こしてしまった。これは大きなスキャンダルだ。かねてより黒岩の体制に不満を抱いていたコーチの船木宏正(CV:金野潤)は鬼の首を取ったかのように黒岩に非難の言葉をぶつける。

 九坂の入団について反対していた船木はそれ見たことかと語気荒く詰め寄るが、黒岩はその話が終わらない間に立ち上がってどこかへと向かう。


 待たせていたタクシーに乗り込もうとする黒岩に天馬が声をかけ、共に警察署へと向かう。


 警察署では鉄格子付きの拘置室に押し込められた九坂と仲間たちの姿があった。仲間の一人は「俺たちいつまでこんなことをやってるんだろう」と九坂に意見めいたことを口にする。

 「俺たちのチーム」を守らなければならないと語る九坂に、別の仲間がさらに意見する。「チームの何を守るんだ?」と。プライドや縄張りなどつまらないもののためにみんなの人生を壊しているんじゃないかと仲間から面と向かって非難され、九坂は戸惑う。


 そこに身元引受人として黒岩と天馬が到着する。天馬を失望させてしまったと思う九坂は合わせる顔がないといった表情で視線を逸(そ)らす。



 警察署を後にする黒岩、天馬、そして九坂。九坂はこんな事件を起こしてしまったというのに非難めいたことを何も言おうとしない黒岩に問いただす。



黒岩「何か言って欲しいのか?」


 威厳に満ちたその後ろ姿に九坂は焦って何も言えなくなる。



 夜半、合宿所に帰ってきた天馬を、メンバーたちが一人も欠けることなく待っていた。落ち込んでいた天馬は仲間が待っていてくれたことに少し元気になり、監督のおかげでとりあえずは無事に釈放されたことを伝える。

 だが彼らのすべてが九坂を心配して待っていた訳ではなかった。真名部が得意の検索能力で九坂のことを調べていたことを告げる。


真名部「九坂くんってかなり危ない人のようです」


 皆帆が後を引き継ぐ。九坂は学校で問題を起こして退学になっているという。元いた学校ではワルのトップに君臨していた不良だったという。

 普段は仏のように優しいのに、怒ると手がつけられない乱暴者になる。下の名前「隆二」に引っ掛けて、「鬼仏のリュウ」と呼ばれ恐れられている。



 キレたら怖い九坂。警察署でも無傷だったし、おそらく圧倒的な強さで敵対する不良を叩き潰したのだろう。やっぱりザナーク・アバロニク(CV:小西克幸)と血が繋がってるんじゃないかなぁ? 退学処分されていたということで、それが九坂だけ出身学校が分からなかった理由のようだ。でも義務教育の中学生で退学とかあるの?


 さらに黒岩に雇われサッカーをしている理由として、仲間たちと一緒に元の学校に復学することが条件だったらしい。



 だがその先を遡(さかのぼ)って調べてみた真名部は不思議そうに続ける。少年時代の九坂はむしろ弱虫でとても優しかったらしいのだ。雨から鳥のヒナを守るため、自身が雨に濡れることも厭(いと)わず傘を差し向け続けた心優しい少年が凶暴な今の「鬼仏のリュウ」と重なるとは思えなかった……。


 真名部が言うには、ある日を境に急に性格が変わってしまったという。何があったのかを誰しも問いたくなる。天馬のその問いには、さしもの事情通の真名部も答えを持ち合わせてはいなかった。

 いずれにせよ九坂がこのままチームに在籍し続けることは困難に思われた。鉄角は船木コーチが九坂を除籍、つまりクビにさせると話していたと語る。

 事態が事態だけに皆帆もその話に賛同する。今回以上の事件が起これば、少年サッカー世界大会への道が閉ざされてしまうことも考えられる。このまま九坂が在籍し続けることは、いつ爆発するか分からない爆弾を抱えるようなものだ。

 だが天馬はその考えに明確に反対する。仲間思いの天馬は九坂の弁明のために船木のもとに直談判することを告げる。それを押し止めるのは神童だった。

 神童はそこまで九坂を庇(かば)う天馬の真意を測りかねていた。どうして庇うのかを問われた天馬の脳裏に、前日誰も見ていない深夜にまで一所懸命に練習していた九坂の姿が浮かぶ。

 天馬はやはりそんな九坂をこのまま辞めさせたくはなかった。神童の静止も振り切り、天馬は船木のもとへ向かう。


 九坂を辞めさせるわけには行かないと強く思う天馬は廊下を走る。その途上で現れたのは黒岩だった。黒岩は曲がり角に立ち、独り言を言うかのような風情で九坂を残留させることだけを天馬に告げ、去っていく。

 いつもなら不気味で何を考えているのか分からない態度なのだが、今回は九坂を辞めさせないという意思さえハッキリすれば十分だった。コーチよりも権限の強い監督の断言だ。天馬はようやくホッと一息ついて安堵する。



 自身の意思の及ばないところでイナズマジャパン残留が決まった九坂はそんなやり取りなど知る由(よし)もなかった。またもあのたまり場に足を向けていた九坂は、チーム(彼とともに退学となった仲間たちとの「チーム」)のメンバーを表すであろう、バッジを見つめていた。



 警察署で自分に向けられた仲間たちの非難の言葉が九坂の心に突き刺さる。九坂は自らのして来たことが本来とは逆の結果しかもたらしてこなかったことを悔やみ、煩悶(はんもん)する。



 そしてそのチーム内のゴタゴタが解決することなく、いきなりその日を迎えてしまう。その日とはFFIV2の第3回戦、イナズマジャパンとシャムシールとが激突する日だ。



 敵地に乗り込み、ほとんどすべてがイナズマジャパンの応援団という威容を見てもまったく動じようとしないシャムシールの背番号10番のサイードと11番FWのカシム・バドル(右 CV:石川界人)。こいつらはいかにもアラブ人ぽい顔つき。ふてぶてしい態度だが、やっぱり彼らも負けると溶けちゃうんだろうか?



 ベンチ前、キャプテンの天馬は仲間たちを鼓舞する。九坂の件でチーム内には不安があるが、今は前向きに戦うしかない。




 恒例の試合開始直前の両チームの布陣。イナズマジャパンはいつも通りの4−4−2のオーソドックスな陣形。この試合で瞬木と井吹以外に必殺技を使える選手は増えるのだろうか?



 一方のシャムシールは前がかりの4−4−2。6番と9番ラシード・ハキム(CV:不明)がいつでも前に飛び出せる形。他に名前が判明しているのは8番MFのタミル・ナスル(CV:小林ゆう)。ただ何といってもやっぱり気になるのは3番のヒゲもじゃだよな。大会運営委員会は彼の年齢をチェックしろ。



 例によって観客席では瞬木の弟の瞬と雄太(CV:小林ゆう)が声援を送る。その声が聞こえたか、瞬木は戦闘態勢の構えに入る。その後方では九坂がまったく心ここにあらずといった様子で棒立ちになっていた。天馬はそれを懸念して声を掛ける。

 「思いっきり行こう」と笑顔を向けられても、九坂は視線をそらして下を向く。だがそのそらした視線がある人物の姿を捉える。



 その赤い髪の少女をサトちゃん(CV:矢野亜沙美)と呼ぶ九坂。幼い頃、彼女が泣いている姿が九坂の脳裏に浮かんだことから、彼女は九坂の幼なじみなのかもしれない。いずれにせよサトちゃんは九坂の過去に大きく関わりを持つ女性のようだ。


 旧知の人物を意外な場所で発見して動揺する九坂の心境を試合開始のホイッスルは待ってくれない。高らかに鳴らされたホイッスルの音を合図に準々決勝進出を賭けた死闘が開始される!


 早速身構える井吹のもとに、これまで繰り返されてきた光景がまたも再現される。神童がゴール前に陣取り、敵のシュートは自分が止めると無言で伝える。井吹は例によって怒り出すのだが、最近は説得を諦めたのかその怒りもやや淡白な様子。


 敵キャプテン、サイードはさすがの実力で、瞬木の持つボールを簡単に奪取する。



 そのカバーにさくらが向かうが、獅子を思わせるライオンヘアーをなびかせてサイードの突進は止まらない。その個人技は事前の情報通りの凄まじさだったが、シャムシールの本領はチームプレーにもある。

 タミルを経てボールは7番に渡る。シャムシールの正確なパス回しと速さに感心する神童だったが、この先には行かせないとばかりに必殺技「アインザッツ」でボールを奪い取る。



 だが試合巧者の神童が奪ったボールをすかさず取り返しに来る6番の選手によって、再びボールはシャムシールのものに。神童がこうも簡単に、しかも地味そうな顔した名も無き端役にボールを奪われるということに天馬は驚く。個人技もそれぞれ高い技術を持っている。

 6番からボールを受けたサイードは両の拳で地面を激しく叩きつける。そこから吹き出すオイルの噴水のてっぺんからシュートを撃ち下ろすという産油国らしい必殺シュート「オイルラッシュ」だ!



 この技があったら日本も石油産出国になれる!?(おそらくイメージ映像です)


 このオイルマネーにまみれた(ウソ)贅沢なシュートには井吹も反応することが出来ず、イナズマジャパンは先制点を奪われてしまう。神童も今回は自分がボールを奪われたところからの失点なわけで、井吹に対して偉そうに説教することが出来ないだろうな……。


 早々に追う展開となってしまったイナズマジャパン。試合展開としてはシャムシールの理想的な立ち上がりであり、イナズマジャパンとしては早いタイミングで追いつきたいところ。



 試合は再度イナズマジャパンボールのキックオフで再開される。スピードに定評のある瞬木が攻め上がるが、前に立ちふさがるのは先ほど瞬木からボールを奪ったサイードだ。天馬は左サイドを駆け上がる九坂にパスするよう指示を出す。

 瞬木はそちらにパスを出すが、九坂は以前の練習の時のようにそのパスを受け損ねてしまう。



 九坂のその気の抜けたプレーを見て嘲笑するシャムシールの皆さん。タミル・ナスルはこう見ると懐かしのロココ・ウルバ(CV:甲斐田ゆき)にちょっと似てる。


 だが調子に乗ったサイードたちは九坂を「お前のような弱い奴」とまで言って嘲(あざけ)る。「弱い」「でくのぼう」……それらの言葉はこの男には禁句であった!



「なめんじゃねぇぞ、おんどりゃ〜っ!!」


 国学園をぶちのめした絵ヅラを使いまわして生意気なアラブ人たちをぶちのめす九坂さん(なぜか「さん」付け)。これには滅多なことではファウルを取らない寛容なイナズマ世界の審判もホイッスル。キレた九坂の異常な行動は、観客からはブーイング、ぶちのめされたシャムシールの選手たちからは驚愕と侮蔑(ぶべつ)、そして仲間であるイナズマジャパンのメンバーたちからは懸念されていた事態が最悪の形で表出してしまったということに対する諦観(「あーあ、やっぱりね」という感じ)で迎えられる。

 九坂はこの大舞台において暴力行為をやらかしてしまったことに自らも驚いていた。天馬は九坂が深夜に頑張っていたことを知っている。それなのに警察沙汰に続けてこの暴力行為だ。天馬は一人のサッカー人として九坂の行為が許せなかった。


天馬「サッカーが出来なくなってもいいのかよ!?」


 一度は九坂を庇ってくれたキャプテンからのこの叱責に九坂は弁解の余地がないのだろう、一切の返答をしない。


好葉「九坂くん……怖いんですよね?」


 聞き慣れないその言葉に思わず振り向いた九坂。語りかけているのは、好葉であった。



「ウチには分かる。ウチと同じだから……」


 九坂は自身が弱い存在だと見られることが怒りのキーワードとなる。好葉に何かを恐れていると言われたことを、語気を荒げてそれを否定する。

 だが九坂はそう言ってから思い当たるフシがあった。観客席の赤い髪の少女に目をやる九坂。彼の目下の懸念事項は彼女、サトちゃんのことだろう。


 過去の記憶が蘇ってくる。



 九坂は過去においてその少女、サトちゃんを守ろうとしたことがあった。まだ弱虫と呼ばれていた頃の九坂は、いじめっ子たちに意地悪されていたサトちゃんを救おうとしたが、返り討ちに遭ってしまう。

 いじめっ子たちの暴力の前に打ちひしがれた九坂の前でサトちゃんは何も言わずに駆け去ってしまう。その態度は弱い自分を全否定されたという思いを少年時代の九坂に残す。そしてそのことがきっかけとなって「弱い」と呼ばれることに心の底から怒りを表出する、「鬼仏のリュウ」が誕生してしまうのだった。




 誰にも気づかれていないはずの九坂の過去の思いを好葉は見抜いた。好葉は天馬に対しても九坂が怖がっているということを伝える。強くならないとみんなが離れていってしまう……サトちゃんが駆け去っていったことから生じた九坂のトラウマは驚くべき話だが、どうして何の関わりもないはずの好葉がそのことを知っているのだろうか?

 だが好葉の話はつじつまの合うものだった。天馬はその言葉を信じる。信じるということは、九坂の置かれた辛い過去をも肯定するということだ。


 その不安定なチーム事情をほくそ笑んで見る者たちがいた。それはもちろん、敵であるシャムシールの選手たちだ。彼らは闘志も新たに、九坂に対して策を練る。敵の弱点を突くことがシャムシールの得意技だという事前情報が、ここに来て大きな意味を持つ可能性を秘め始めた。



 過去のトラウマに悩む九坂は、果たしてその呪縛から解き放たれることが出来るのだろうか? そして好葉はどうして九坂の心の闇を見通すことが出来たのだろうか?



 次回に続く。



  エンディング



 今回は九坂の過去が明らかになる話だった。九坂は怒ると手がつけられなくなる凶暴な男だが、その恐怖の番長誕生の要因として女の子の影がちらつくところが甘酸っぱい。多分好きだったサトちゃんに嫌われてしまったという思いが九坂を鬼に変えてしまったのだろう。

 彼女がこの試合を見に来ていることがより一層、九坂をネガティブな方向に追いやっているという気がするが、これは逆に考えると過去のトラウマを克服するチャンスでもある。彼女の見ている前で荒くれることなく、それでいて過去を吹っ切ることが出来れば九坂は立ち直ることが出来るはずだと思う。

 何にせよ九坂の奮起が必須であることは言うまでもない。余談だけど彼と一緒に退学になった仲間たちも含め、全員が名前に数字入りだね。七瀬、五反田、六本松、九坂。


 それから新たな謎をもたらしたのが好葉の告白だ。彼女はなぜ九坂の過去を知っていたのだろうか? 私の勝手な予測だが、彼女はテレパスで他の人が何を考えているのかが分かってしまうのではないだろうか? だからこそ他者から疎まれ、一人ぼっちとなっているのではないだろうか?

 この次の話も私はまだ見ていないのだけど、そこでこの辺の真相が別の理由で描かれていたら恥ずかしいなぁ。テレパス説以外では、好葉も実はイジメの現場にいたという「九坂の幼なじみ」説しかないと思うんだけど、あのシーンにボンバーヘッドの女の子の姿はなかったやんね?



 それからサウジアラビア代表のシャムシール、メチャ悪い連中じゃん。九坂を挑発したこともあるけど、そもそもの性格が嫌な感じ。相手の弱点を突くというやり方も勝負の世界では正しい行為なんだけど、正々堂々のイナズマイレブンの世界観ではちょっとワルのイメージ。

 緑のユニフォームは綺麗だった。リアルのサウジアラビア代表もアウェーで着ているエメラルドグリーン。ちなみにエメラルドグリーンはイスラムでは聖なる色とされている。メッカとメディナというイスラムの二大聖地を抱えるサウジアラビアらしいチームカラーだ。



 あのロココ似のタミルも次回はラフプレーで九坂に報復する。どうせ審判はこれはファウルは取らないんでしょ?


 最後にもう一度、サイードと3番のオッサン2人の年齢確認を私は主張しておく。上手くいったら年齢詐称で反則勝ちもあるで!



  次回「帝王の涙!」に続く。



人気ブログランキングへ
 ↑ 最後まで読んでくれてありがとう。「ブログランキングはそんなに甘くない!」(今日の格言・神童風)というわけで記事が面白かったと思われましたら、毎日クリックして頂けると嬉しく思います。



僕たちの城 (数量限定生産)
イナズマイレブンGOオールスターズ「松風天馬(CV:寺崎裕香)&剣城京介(CV:大原崇)&神童拓人(CV:斎賀みつき)&西園信助(CV:戸松遥)&霧野蘭丸(CV:小林ゆう)」
FRAME (2013-02-06)
売り上げランキング: 462

青春おでん
青春おでん
posted with amazlet at 13.02.09
FRAME (2013-02-06)
売り上げランキング: 678