『イナズマイレブンGOギャラクシー』第9話「帝王の涙!」の感想 【鬼の目にも涙】
恒例のアニメ感想文、今回は『イナズマイレブンGOギャラクシー』第9話「帝王の涙!」を観ての感想を書く。過去の呪縛に囚われた男が、その誤解に気付き吹っ切れて成長していくさまを描いた内容で、見ていて大いにカタルシスを感じさせる内容だった。詳細は以下感想文にて。
当ブログは、『イナズマイレブンGOギャラクシー』を視聴しての感想を、自分なりに面白いと思えるよう、コミカルにそしてシニカルに描く事をモットーにしています。その事に不快を感じる方はご覧にならないよう、お願いします。
- 前回の感想は、
『イナズマイレブンGOギャラクシー』第8話「九坂の二つの顔」の感想 【サトちゃんと言っても薬局の前のゾウじゃないよ】
をご覧ください。
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少年サッカー世界大会「フットボールフロンティアインターナショナル(通称FFIV2)」アジア予選3回戦で【イナズマジャパン】はサウジアラビア代表【シャムシール】と対戦することとなる。
「アラビアの獅子」という異名を持つシャムシールは狡猾(こうかつ)かつ個々の能力の高さを生かしてイナズマジャパンを圧倒し、先制点を奪う。反撃をしたいイナズマジャパンだったが、敵選手たちの挑発を受けたチームの問題児、九坂隆二(CV:岡林史泰)が暴力プレーをしてしまい、ファウルを取られてしまう。
試合前にも暴力事件を起こしていた九坂に対しキャプテンの松風天馬(CV:寺崎裕香)は珍しくむき出しの怒りをぶつける。九坂が真剣な思いでサッカーに打ち込む姿を見ていた天馬にとって、その行為はサッカーに対する裏切り行為に見えたのだ。
そんな九坂の心中をなぜか理解するのは、これまで九坂とはまったく接点の無いはずの森村好葉(CV:悠木碧)だった。
弱いとみなされることがイコール一人ぼっちになってしまうという恐怖感から九坂が凶暴になっているのだと断言する好葉。それを聞いて天馬は九坂を見つめ直す。敵チームキャプテンのサイード・アシュラフ(CV:高口公介)や11番FWのカシム・バドル(CV:石川界人)はそこにイナズマジャパンの弱点を見出したとばかりにほくそ笑む。
天馬は好葉から聞いた「強くなければみんなが離れていく」という言葉の意味を問いかける。九坂は信じられないほど殊勝(しゅしょう)な態度で、答えたくないとだけ返す。これはつまり好葉の言っていることが図星を突いているということを図らずも証明していた。
九坂は誰にも心の内を明かさず、歯を食いしばって過去の苦い記憶と戦っていた。
またもあのシーンが蘇(よみがえ)ってくる。幼き日の公園で、幼なじみのサトちゃんこと神田里子(CV:矢野亜沙美)がいじめっ子たちにいじめられていた。臆病だった九坂はそれでも勇気を振り絞っていじめっ子たちに立ち向かう。
ぶちのめされて倒れた九坂を見下ろす里子は、一言も発さずにその場を走り去ってしまう。助けようとした少女のあまりに冷たいその行為は九坂に癒えることの無い心の傷を残した……。
フィールドの誰よりも強健(きょうけん)な拳を握り締め、九坂はそう心の中でつぶやく。その鍛え上げられた肉体がもたらす絶大なパワーの使いどころをこれ以上誤ってはならない。
オープニング
そこで前半戦終了のホイッスルが鳴る。試合は0−1とイナズマジャパンがリードを許す展開で折り返す。だが九坂の心の動揺が明るみに出たこのタイミングでのハーフタイムはむしろ好都合と言えないことも無かった。このまま試合が続いていても、状況が好転するとは思えなかったからだ。
ベンチに戻った一同……というか九坂を待ち受けていたのは、コーチである船木宏正(CV:金野潤)の叱責だった。暴力事件を起こした九坂を試合前から敵視しチームから除名しようとしていた船木は当然ながら反則を犯した九坂を許さない。
謝罪の言葉を虚(うつ)ろに述べ、立ち止まることなくベンチ裏に下がっていく九坂。その後ろ姿には苦悩する男の悲哀が滲(にじ)み出ていた。
それを心配する天馬に対し、ある意味船木以上にシビアな考えを持つ神童拓人(CV:斎賀みつき)が、後半戦のメンバーから九坂を外すことを促(うなが)す。ラフプレーで試合が壊れてしまうことを恐れる神童の意見に天馬はやはり同意しない。九坂自身ももう一度ラフプレーをやってしまえばどうなるかは自覚しているはずだと食い下がる。
だがこの考えを抱いているのは神童ばかりでは無かった。事前に九坂の凶暴性を調べていた真名部陣一郎(CV:野島裕史)や皆帆和人(CV:代永翼)も同意見であることを告げる。
九坂の立場にシンパシーを感じる好葉が心配そうに仲間の様子を窺(うかが)う中、野咲さくら(CV:遠藤綾)だけはこの意見に懐疑的だった。九坂と同じように彼女にもブラックな過去があったわけで、好葉ほどでは無いもののその辺の心境が影響しているのかもしれない。鉄角真(CV:泰勇気)は逆に神童説に同意の様子だ。
天馬「俺は11人全員で戦いたい!!」
天馬はあくまでも九坂外しに反対を貫く。みんなでサッカーがしたいと理想論をぶつ天馬に対し、神童はあくまでもリアリスト(現実主義者)だった。
神童「……それで、勝てるのか?」
そう問われて確信を持って「勝てる」と返すことが、天馬には出来なかった。確かに世界を目指す過程にある現在、勝利することが何よりも優先されるべき目的であった。自分の考えは甘いのではないかと天馬は苦渋(くじゅう)の表情を浮かべる。
一方、ロッカールームに引き下がった九坂はガックリと肩を落として沈思黙考(ちんしもっこう)していた。彼はこれまでのところ自身がこのチームに貢献できないどころかお荷物であるということを自覚していた。他のメンバーに最悪の迷惑を掛けてしまう前に、何とか自らの汚名を返上し、名誉挽回を期する覚悟でいた。
ハーフタイムを終え、両チームが再びフィールドに戻ってきた。お互いに選手の交代は無し。九坂も外されることなくフィールドの一角を占めていた。
シャムシール側は当然の如く、後半は九坂という大きな穴をターゲットにすることを決めていた。彼らの作戦が功を奏することになれば、九坂を外しておいた方が良かったという悔悟(かいご)をイナズマジャパンに残すことにつながりかねない。
後半戦に向けてイナズマジャパンの応援団も気持ちを切り替えて応援する。瞬木隼人(CV:石川界人)の弟の雄太(CV:小林ゆう)と瞬(CV:戸松遥)が声援を送るのに対し、里子は厳しい表情を崩さないまま試合を見つめる。彼女の九坂への思いは、未だ不明だ。
そして後半戦開始のホイッスルが鳴る。今度はシャムシールボールのキックオフだ。サイードは背番号9番のMF、ラシード・ハキム(CV:小林ゆう)にパスを送る。それに向かうのは九坂だ。だがやはりというか、まったく止めることが出来ない。
九坂のフォローをするのは皮肉なことに後半戦前に「九坂を外せ」と天馬に進言していた神童であった。不敗の必殺ブロック技「アインザッツ」が冴え渡る。
ボールを奪った神童はさくらに横パスを送る。その前に立ちふさがるのは2番のターバンかぶり崩し野郎だった(当たり前だが正式名ではありません)。驚異を感じたさくらは逆サイドに大きくボールを動かす。左サイド、そこに走り込むのはこの試合のキーマンになるであろう九坂だ。
だがそのボールを直前でカットするのは、まさかの天馬だった。驚く九坂。もしかしたら天馬は自身を信用していないのではないかという悪夢が脳裏をよぎる。実は天馬は九坂の暴走する悪癖を起こさせないためにあえてパスをカットしたのだが、九坂をフォローしながらのプレーは無理があったのだろう、剣城へのパスは前半に神童からボールを奪った実力者、6番の選手にカットされてしまう。
あからさまに九坂外しをするメンバーたち。パッと見、もはやいじめのレベルだが、九坂が今度乱闘騒ぎを起こしてしまえば本当にこのゲームは台無しになってしまうという考えが彼らをこのように行動させるのだろう。敵チームの策士・サイードとカシムは九坂の反則を引き出そうと狙っているであろうし。
しかも見ていて辛いことに九坂はまだ自分がいじめられていることに気づいていない。チームと一緒になって敵陣に上がるのだが、みんなが九坂を無視したように行動するのを見て、九坂はようやく確信する。仲間が彼をラフプレーの道に走らせないため、あえて自分をハブっているということを。
九坂は天馬たちのその配慮に感謝する。だがそれでは自身の気持ちが収まらない。九坂は拳を握り締め、仲間の恩義に報いる方策を思いめぐらせる。そしてその姿を真剣な表情で見つめるのは九坂と因縁浅からぬ思い出を持つ、里子だった。
瞬木が放った豪快なシュートをシャムシールの守護神、スルタン・カラム(CV:田尻浩章)が片手で止めるという妙技を見せる。濃い顔の男だけあって守りは固い。ちなみにスルタンはイスラム圏では王、皇帝の意。
スルタンはキャッチしたボールを前線のサイードのもとへ一気にフィードする。サイードは実力の差を見せつけるとばかり、ここでチームの必殺技、必殺タクティクス「大砂漠砂嵐」を発動する!
必殺タクティクス「大砂漠砂嵐」の図。スライディングすることで砂煙をあげ、敵の視界を奪う攻撃的なタクティクスだ。前の試合で戦ったオーストラリアの必殺タクティクス「サックアウト」とはまったく逆の技だ。
5人が巻き起こした砂煙は見る間に巨大な砂嵐に変貌し、真名部、皆帆、鉄角たちを一瞬にして飲み干し、吹き飛ばしてしまう。ゴール前に詰めることが多くなり、今回も最終ラインに残っていた神童が「俺が止める!」と砂嵐に立ち向かうが、やはりその視界を奪われ、為す術もなく砂の海に飲み込まれてしまう。
サイードはここで先制した必殺シュート「オイルラッシュ」を再び放つ。神童をも無力化した現在、このシュートに対応できるのはキーパーの井吹宗正(CV:鈴木達央)だけだ。
やはり止められない! 1失点目の再現のように井吹のセーブを突き破ってゴールネットを揺らすサイードのシュート。井吹も出し惜しみせずに必殺技「ワイルドダンク」で対抗しろよ。
後半戦の最初の得点をどちらが取るのかは今後の展開上、実に大きなプレーなのだが、それはイナズマジャパンにとって最悪の形で表出してしまう。
またもシャムシール側に得点が入ってしまった。これで試合は0−2と、一度の反撃では追いつけない点差になってしまう。強力な必殺タクティクスの前に何も出来なかった神童は膝をついてその失点を悔やむ。剣城もシャムシールの想像以上に強力な必殺タクティクスに舌を巻く。
そして九坂。彼も何ら役に立たずのままこの追加の失点を見て、悔しさを表情に表す。ベンチからは叱咤激励役とムードメーカー役を兼ねたマネージャー、空野葵(CV:北原沙弥香)が試合はまだこれからだとチームを落ち着かせるべく声を出す。
試合は失点を喫したイナズマジャパンのキックオフで再開される。瞬木のヒールパスを受けた第二線の天馬は司令塔の役割を引き受け、全員に上がるよう指示を出す。その天馬からボールを奪おうと向かってくるのはカシムだ。天馬は久々の必殺ドリブル技「Zスラッシュ」でカシムを抜き去る。
訪れたチャンスに剣城がボールを要求する。だがサイードが果敢にアタック、天馬からボールを奪ってしまう。ドリブルが大得意の天馬から個人技でボールを奪ってしまうとは、サイードの実力が窺える。
ボールを持ったサイードはスピードに乗って駆け上がる。この試合の全得点を挙げている彼がボールを持つこと、それだけでイナズマジャパンにとっては大ピンチだ。事実ここでサイードは3点目を奪おうとシュートを狙っていた。
そうはさせじと九坂が挑みかかるが、これまでも見られた両者の実力差を思い知らされるばかり。またも簡単に抜き去られてしまう。だが今度の九坂は諦めない。すぐにサイードの後を追う。
サイードたちは格下を相手に遊ぶかのようにボールを操り、九坂を翻弄(ほんろう)する。だがこれはただ単に遊んでいるわけではなく、短気な九坂を怒らせて反則を誘うという老獪(ろうかい)なプレーでもあった。
怒りという魔物に心を支配され出した九坂を見て剣城が相手をよく見て冷静になれと諭すのだが、がむしゃらにサイードに向かう九坂にその言葉は届いていないようだ。さらにサイードは偶然に見せかけて、九坂のみぞおちに肘打ちを一撃させる。
苦悶して膝をつく九坂に対し、サイードはわざとやったとしか思えないニヤニヤ笑いを浮かべ、九坂を挑発する。グラウンドに付けていた九坂の手が握り締められ、芝生を掴む。それは怒りが心頭に達して我を忘れてしまう状態が訪れたことを意味する。天馬はあわてて九坂を止める。
天馬「九坂、ダメだ!!」
その言葉を聞いて九坂はハッと我に返る。彼にとってはこの期に及んでまで自分を信じてくれている天馬からの言葉を無視することは出来なかった。暴走しようとする心を抑えるかのように、拳を握った右手を左手で掴む。
九坂が心の鬼と戦い、打ち克(か)ったことを見て天馬は嬉しそうにつぶやく。
天馬「そうだ、こらえるんだ!」
サイードは自らの策にハマらない九坂に不満そうに舌打ちする。その隙を九坂は見逃さなかった。
九坂のパワー押しするスライディングはサイードからボールを奪い取ることに成功する。転がるボールは、ここまで我がことのように九坂を心配して来た好葉のもとに転がるから偶然って不思議だ。
好葉はボールを押さえようとするが、トラップを失敗してボールは自陣中央へと転がってしまう。これは相手チームへの最大級のアシストも同然だった。カシムが喜色を浮かべて駆け込むが、それはすんでのところで皆帆がクリアして難を逃れる。ミスに責任を感じていた好葉は文字通りホッと胸をなでおろす。
九坂が思った通りの暴走を始めないことにサイードたちはより露骨なプレーに出る。カシムは向かってくる九坂にあからさまな反則の肘打ちで攻撃する。さらにボールを持った九坂にサイードがスパイクの裏を向けて足を蹴りつける。どちらも一発レッドカード級の反則なんだけど、審判はその瞳がビー玉製なのだろうか、おとがめは一切ない。九坂の反則は取るというのにねぇ。
ハイボールに飛びつく九坂からわざとワンテンポずらして飛びつき、顎に頭を打ちつけて攻撃する背番号8番のタミル・ナスル。「サウジのロココくん」と私が勝手に呼んでいる彼も極悪な表情で九坂を怒らせようとする。ここまでやって九坂の前にコイツらが反則を取られレッドカードで退場させられるというドジっ子展開だったら笑えたんだが。
九坂の身とその後の暴走を心配した天馬が駆け寄ろうとするが、天馬の言葉が九坂を制御する精神安定剤であることを知るシャムシールは7番の選手が立ちふさがって天馬の行く手を阻む。
見ると他の選手たちにもエメラルドグリーンのユニフォームが張り付いていた。シャムシールの作戦が九坂を孤立させるつもりであることがその陣形からハッキリする。
倒れて苦しむ九坂を見てサトちゃんも心配そうな表情を浮かべる。余談だが九坂がフルボッコされるというイナズマジャパンのピンチに際しても笑顔で見ているちびっこたちの精神力の強さは特筆に値する。
九坂の前で仁王立ちになっていたサイードは九坂を「うすのろ」と罵倒し、ボールを顔面に向けて蹴りつける。その卑劣なプレーに驚いた天馬はマークをかわして九坂のもとへ駆けつけようとする。だがやはりそうはさせないとカシムが二段構えで張っていた。
そうしている間に、サイードは九坂に決定的な言葉を投げつける。
サイード「この弱虫野郎がよ!」
その言葉で明らかに九坂の雰囲気が変わる。またも心を鬼に支配され始めてしまった九坂は怒りの形相で立ち上がる。その圧倒的な剣幕には挑発していたサイードですら恐怖でたじろぐ。九坂はサイードをぶちのめすことだけを考えて掴みかかる!
だがすんでのところでその手が止まる。天馬が捨て身の思いで九坂を抱き止めたのだ。
鬼モードの九坂は怒りが収まったわけではない。ものすごい力でサイードに向かってにじり寄る。体格差でジワジワと押されながらも天馬は必死に九坂を押しとどめ説得を試みる。これは喧嘩ではなくサッカーの試合であり、暴力で勝利してもそれは本当の強さではないのだと天馬は叫ぶ。
弱いよりは強い方が良いと鬼九坂は聞く耳を持たないが、次の天馬の言葉に驚愕と動揺の色を浮かべる。
天馬「今のお前のどこが強いんだ!?」
見る間に九坂は冷静さを取り戻していく。天馬の叫びが九坂の心を取り戻したのだ。九坂は力さえあればみんなが認めてくれると思い込んでいた。自分が強くあるからこそ孤独にならなくて済むという九坂の思想は、彼の過去を知らないものには理解しがたいものがあった(好葉は除く)。
落ち着き振り上げた拳を収めた九坂に対し、ここで意外な闖入者(ちんにゅうしゃ)が声をかけてくる。それは試合前の暴力事件で一方の当事者だったあの不良たちであった。
試合中乱入という前代未聞の事態を受け、試合はストップしてしまう。葵はこの異例の事態を止めないのかと監督の黒岩流星(CV:佐々木誠二)に問いただすが、黒岩はまったく動こうとはしなかった。不良たちが怖かったのだろうか?
黒岩が頼りにならないと感じた葵は傍(かたわ)らの水川みのり(CV:高垣彩陽)に善後策を問うが、みのりもやはりこの事態を静観する構えだった。不良たちが怖かったのだろうか?
突如場を支配した不良たち、そのボス格の男、出門優雄(CV:小田柿悠太)が九坂に歩み寄る。昨日は姿が見えなかった男だ。彼は子分たちが九坂に痛めつけられたお礼参りにやって来たというのだ。よりによって試合中にやって来るとは、性格が悪い(不良だからな)。
天馬は不良たちに意見しようとするが、九坂がそれを制する。これは自分の問題だと、天馬に累が及ぶことを避けようとする。出門はここぞとばかりに九坂を挑発する。「噂通りの弱っちい奴」と言われ、またも瞬間湯沸かし器のような九坂の頭に血が昇る。
今度は天馬の静止も聞かない! 九坂は拳を振り上げて出門に向かって行く!
九坂はついにその拳で人を殴ってしまう!! だがその対象は、出門ではなく天馬であった!!
天馬を殴ってしまって九坂の顔に動揺の色が浮かぶ。天馬は暴力で他者を制圧する九坂の行為を止めさせるため、あえて不良の前に回って殴られたのだ。マイク・タイソンに殴られた方がマシと思える九坂の容赦なしの本気のパンチを受けて、声も発さずに崩れ落ちる。
それを見たシャムシールサイドはイナズマジャパンが仲間割れを始めたと余裕の表情を見せる。サイードくん、さっきまで九坂の迫力にビビってヘタリこんでいたことを私は忘れない。
ハードパンチを受けて天馬はすぐには起き上がれない。だが身体を震わせながら、天馬は九坂に対する説得を止めない。
天馬「今は俺たちとサッカーをやるんだ!」
だが九坂は事の解決に際して暴力に訴えたことを反省してはいなかった。九坂は「弱い」と言われることがどうしても許せない屈辱なのであった。顔が腫(は)れて見えにくくなった左目で考えを変えようとしない九坂を見つめ、天馬は悲しげな顔になる。
出門は九坂のトラウマを知ってか知らずか、なおも弱虫野郎と一番心の琴線(きんせん)に触れる悪罵(あくば)を投げつける。九坂は弱い自分を否定し、強くなったのだと言い返す。
少年時代、自分をぶちのめしたいじめっ子たちを力で制した姿が九坂の力の渇望の原点になっている。だがそれを見て里子は九坂を恐れ、逃げ出してしまう。好きだった子に逃げられてしまうという彼の決定的なトラウマは実は九坂が無分別な力を誇示したことが原因であったのだ。だが九坂は幼い記憶からそれを誤解していた。そしてもっと強くならなければ自分は孤独になってしまうと歪んだ思考を持ってしまったのだ。
その歪んだ記憶がまた怒りと化し、その怒りがまた怒りを呼ぶ。ついに九坂は「鬼仏のリュウ」の異名さながらの姿を現してしまう!
子供の頃はまだ可愛げがあったけど、今は普通に怖い。心の制御が不完全という状態の彼はやっぱり前作の怒りんぼキャラだったザナーク・アバロニク(CV:小西克幸)と酷似している気がする。「鬼仏」状態の九坂はザナークがミキシマックスしたように見える。
天馬は止めようとするが、こうなっては誰にも止められないと思われた。怒りを炎のオーラと化して迫ってくる九坂の姿を見て、一度その逆鱗(げきりん)に触れている出門以外の不良たちはビビリ出し、タジタジと逃げ腰となる。出門だけは後ずさりしながらも子分の手前、なおも立ち向かおうとする。
その出門たちの前に回って九坂を止めようとするのは、またしても天馬であった。
今の鬼神となった九坂は天馬ごと目の前のすべてを粉砕しないと収まらないだろう。好葉は恐れを抱いてそれを見つめるしかない。そしておそらく他のメンバーたちも……。鉄角とかボクサーだったんだから何とかならないのかな? 体格的に無理か。
それでも天馬は諦めずに説得を続ける。本当の強さとは自身が恐れているものから逃げずに向き合うことだと述べ、暗に九坂が見たくない現実から逃避するために暴力という安易な方向に流れていることを批判する。
その言葉は何も聞こえないように思えた九坂の耳に届いた。九坂は改めて前半に好葉から投げかけられた疑問と向き合う。
「九坂くんは怖いんですね……強くならなきゃみんなが離れていってしまうって……」
その言葉が図星であったことを九坂は認めざるを得ない。この怒りの根源がまさにそうであったからだ。「怖いものがあっても逃げずに向き合え!」と繰り返す天馬の言葉が、ささくれた九坂の燃える炎を鎮火させる。
???「リュウちゃん!!」
九坂を下の名の愛称で呼ぶ声が聞こえる。観客席の最前列に駆け寄った里子が九坂を呼んだのだ。意図せざる幼なじみから声を掛けられ、九坂は怒りをかき消してただただ動揺する。
2人だけの心の会話が繰り広げられる。里子はなぜ九坂がそこまで自分を追い込むのかを問う。九坂は里子が弱い自分を見捨てて行ったことを挙げ、里子に嫌われたくなかったという思いを吐露(とろ)する。
里子は自分を助けるためにいじめっ子たちに立ち向かった九坂を弱虫じゃなかったと肯定し、そんな九坂が好きだったと告白する。
里子はその場でどうして良いのか分からずに逃げ出してしまったことを明かし、それをずっと謝りたかったのだと告げる。長年に渡る誤解が氷解し、九坂の目から涙がこぼれ落ちる。サトちゃんは自分を嫌ってはいなかったのだ!!
突然の幼なじみ同士の復縁に天馬も毒気を抜かれたように見守る。話がよく見えないが、九坂を雁字搦(がんじがら)めにしていた心の呪縛が解けたことだけは分かる。出門は九坂が泣いていることをまたも弱虫と揶揄(やゆ)するが、九坂は信念を持って言い放つ。
九坂「出て行け!!」
暴力一辺倒だった先ほどとは違う、それでいて先ほどよりも抗(あらが)いがたい雰囲気を感じた不良たちは憎まれ口をたたいてすごすごと退散していく。
里子の数年越しの告白は九坂を真の意味で強い男に変えた。乱れた髪をかき上げ、天馬から渡されたバンダナを頭に巻いた九坂はすっかりもとの姿に戻っていた。だがその心だけは試合前とは比較にならないほどの進歩を遂げていたことは間違いない。そして里子とともに生まれ変わる機会をくれた天馬に心からの感謝の言葉を告げる。
「キャプテン、迷惑かけてすんませんでした」
「さぁ、サッカーやりましょう!!」
いたずらっぽい笑顔でそう言う九坂に、新たなサッカーバカ誕生の姿を見た天馬は嬉しそうに同意する。これでイナズマジャパンの現状における最大の懸念事項は解決に向かうであろう。
天馬と九坂の友情を冷ややかな視線で見つめるのは、サイードとカシムだった。友情などくだらないと冷笑する彼らだったが、シャムシールもチームワークでつながるチームのはず。この言い分にはいかにも不自然な印象が残る。
不良たちの乱入という事態も収束し、試合が再開される。シャムシールは3点目を奪ってイナズマジャパンに引導を渡そうと仕掛ける。ラシードの突進の前に立ちはだかるのは、九坂だった。
これまでの九坂のプレーを見ていたラシードは余裕の表情で向かっていく。「弱虫野郎」と言われ、生まれ変わったはずの九坂は何とまたも鬼仏のリュウのスタイルを取って待ち受ける。何も変わっていないと思ったさくらや鉄角が驚く中、九坂は怒りのオーラをその身に押し込めることに成功する。
怒りのパワーを残したままそのパワーの暴走を防ぎ、制御するというニューバージョンの動きを見せる九坂はラシードからボールを奪取する。この試合で初めてサッカーのプレーらしいプレーをして、シニカルな性格の真名部や皆帆からも一目置かれる。
敵選手2名のスライディングタックルを華麗にかわし、九坂のオーバーラップは止まらない。単に怒りに身を任せていたなら、かわさずに力で粉砕しようとぶち当たっていただろう。力の加減というものを覚え、鉄角や好葉もそのプレーを絶賛する。
天馬は前線の瞬木がフリーであることを告げる。九坂はその指示にも対応し、瞬木にパスを送る。怒りに我を忘れていた頃にはおおよそ不可能なプレーだ。
パスを受けた瞬木はノーマルシュートを止められた先ほどと同じ轍(てつ)は踏まない。アクロバティックにボールを操り、天高く飛び上がる。彼の必殺シュート「パルクールアタック」の挙動だ!! シャムシールGKのスルタンも必殺技「ドライブロー」で対抗する。
瞬木のシュートはスルタンの「ドライブロー」を打ち破り、ついに待望の1点をイナズマジャパンにもたらす。これで1−2と試合は俄然面白くなって来た。
九坂の活躍あってこそのゴールだったが、兄ちゃん真理教の弟ズは瞬木のシュートのみを喜ぶ。まぁゴールが一番活躍っぽく見えるんだしこれも理解できるけどね。
1点を返し、さらに九坂という当初の弱点がチームの有望な攻撃の基点となった今のイナズマジャパンは押せ押せの状態でシャムシールに襲いかかる。瞬木にエースストライカーの座を脅かされ始めた剣城は、必殺シュート「バイシクルソード」でゴールを狙う!
この世に現れた瞬間から噛ませ技だったスルタンの「ドライブロー」でこれが止められるわけもなく、一気にイナズマジャパンが同点に追いつく。
こうなってはムードは完全にイナズマジャパンのものだ。葵の声援を受けて張り切る天馬は自らゴール前に持ち込み、必殺シュート「ゴッドウィンド」を撃ち抜く。シャムシール側は3番、ヒゲの年齢詐称男を含むDF3人がかりでそのシュートに立ち向かう。「ゴッドウィンド」は彼らを蹴散らすが、勢いは弱まっている。これなら噛ませ技の「ドライブロー」でも対処できた。
「ドライブロー」が初めてシュートを阻止したエフェクト。ボールがボロボロと崩れ落ちるという表現だ。「パルクールアタック」に敗れた時はこれが見れないまま試合が終わってしまうかと思ったけど。
シュートを止めたスルタンはまたも大きくボールを前線にフィードする。カウンター攻撃に、サイードは最後の攻撃と総力を結集することを宣言し、必殺タクティクス「大砂漠砂嵐」で挑む。
その必殺タクティクスの威力は圧倒的にどうしようもない。真名部たちはまたも為す術なく飲み込まれてしまう。残り時間を考慮すると次の1点がどちらに入ろうと、それが勝敗を決する得点になる。経験則的にそのことを知る神童はそれを敵に奪われてはならないと期する。
必殺タクティクス「大砂漠砂嵐」への対応が思いつかないままふと見ると、その前に立ちはだかる男がいた。九坂だった。力押しは効かないと見た神童は九坂にやめるよう指示するが、九坂は構わず砂嵐を待ち受ける。あっという間もなく飲み込まれてしまう九坂。
九坂「いや……勝つ!!」
次の瞬間、はじき飛ばされてしまったのはシャムシールの選手たちであった。5対1で、しかも必殺タクティクスを技も出さずにぶち破ってしまうとは……。このブレーキの壊れたダンプカーぶりはやはりザナークの影を感じてしまう。
このぶつかり合いの直後にBGMとして流れる『ガチで勝とうぜ!!』の歌詞のまんま、九坂はガチで勝ってしまった。ボールを奪った九坂は両の足をフィールドに打ち付けて身体を固定し、その体躯(たいく)を引き絞られた弓のようにのけぞらせる。それは生まれ変わった九坂が凶暴性を残しつつ理性をコントロール出来る状態になったればこそ駆使できる必殺シュート「キョウボウヘッド」だった!
怒髪天(どはつてん)を衝くような猛烈、豪快なシュートがシャムシールゴールに襲いかかる。スルタンは馬鹿の一つ覚えのように「ドライブロー」で迎撃するが、DFたちのブロックもないこの状態での九坂のシュートが止まるわけもない。スルタンを押しのけ、九坂のシュートはゴールネットをこれ以上ないほどに激しく揺さぶる!!
九坂らしい男の必殺技が決まり、ついに試合は3−2とこの試合初めてイナズマジャパンがリードを奪う。そしてその瞬間、試合終了のホイッスルが鳴り渡る。試合は新たな能力に目覚めた九坂の攻守に渡る大活躍で、イナズマジャパンが見事に逆転勝利を収めた。
敗北が決まった瞬間、サイードは頭を抱えて絶叫する。他のシャムシールの選手たちも力なくグラウンドに伏してしまう。彼らもまた試合後は消滅する運命なのだろうか?
勝利の殊勲者である九坂には、「兄が一番」という思考の持ち主の瞬木ブラザーズも声援を送ってその功を労(ねぎら)う。そして九坂を誰よりも想っていたサトちゃんこと里子も喜びの涙を流す。
「リュウちゃん……いっぱい悩んだけど思い切って今日ここに来て、本当に良かった……!」
彼女も九坂と同様に過去の思いに引きずられ、悩み続けていたのだ。2人の呪縛が同時に解け、きっとこれからは真摯(しんし)な気持ちでお互い向き合うことが出来るようになるだろう。この試合はこれだけでも価値があったと思える。
九坂はトレードマークのバンダナを結び直す。そこに天馬が駆け寄ってくる。決勝点を挙げたものすごい必殺技を目を輝かせて褒め称えるキャプテンに対し、九坂は頭を掻きつつ、ただ達観していた今までとは違う反応を見せる。
九坂「何か良いっすね、サッカーって!」
その言葉に天馬は大いに喜ぶ。サッカーを愛する男がまた一人増え、天馬はチームがますます一丸となることを実感する。九坂は天馬に向けていた笑顔をそらし、自らがサッカーをすることになったそもそもの理由を思い返す。
友信学園と書かれた学校の前で、九坂は黒岩に頭を下げていた。彼は自分の不良行為のせいで巻き添えを食って退学処分となった仲間たちとともにこの学校(友信学園)に戻して欲しいと懇願する。つまりこれが九坂がサッカーをする理由であり、イナズマジャパン入りするにあたって黒岩に飲んでもらった条件なのだろう。
九坂はその時のことを思い返しつつ、今ベンチに座る黒岩を見つめる。九坂は仲間たちを守るために戦いを続けていたつもりだったが、実はそれは自身を守りたかっただけなのだということに気づく。彼の戦いは仲間のためではなく、仲間が自分の前から立ち去ることが耐えられなかったという九坂自身のエゴだったのだ。しかしこれまでは無理やりやるしかなかったサッカーというものの魅力を知った今、九坂の心境も変わるだろう。
次の準決勝に向けて仲間たちを鼓舞する天馬の姿を見ながら、神童と剣城は対照的な表情を見せていた。天馬の構築したチーム内の結束がどんどん強固な形となって勝ち進むことを素直に喜ぶ剣城と、それに対して複雑な心中を隠しきれない神童。
ベンチではみのりが珍しく満面の笑みを浮かべて楽しい試合だったと感想を述べる。それに対して黒岩はやはり一言も発さない。今回の黒岩の中の人、全然仕事してないよね。
そしてその夜の合宿所はさながら祝勝会であった。ハレの日にふさわしい食材、カレーの美味しさに舌鼓を打つ天馬たち。寮母の蒲田静音(CV:くじら)が腕によりをかけたカレーは「おふくろの味」として選手たちの疲れた心身に染み入るように安楽をもたらす。
九坂「辛〜っ!!」
そんな中、ただ一人ノリ悪くカレーの辛さに顔をしかめる九坂。どうやら彼は甘党らしい。豪快で男らしく界隈(かいわい)で恐れられる不良が実は辛いのが苦手というのは実に萌えポイント。
蒲田さんから「辛いの弱いのね?」と問われ、一同に緊張が走る。「弱い」という単語にまたキレてしまうのではないかと……。
だがそれは杞憂(きゆう)であった。九坂は笑って「辛いの大好きっす♡」と強がる。怒ることもなくおどける九坂を見て一同は安堵する。今の九坂ならもう大丈夫だろう。屈折した過去の誤解が解け、現在の仲間たちから信頼を得た九坂はカレーの辛さに汗をかきながらもその旨さを実感する。仲間たちと食べるカレーということがより美味しく感じさせたのだろう。今の彼の笑顔はこれまでで一番輝いていた。
次回に続く。
エンディング
九坂の過去の呪縛が解けて一件落着となる今回。凶暴一辺倒だった九坂がサトちゃんとの間にわだかまっていた誤解が解消し、立ち直って行くシーンはやはり見どころだった。再会した瞬間2人きりの世界になったのが面白かった。サトちゃんと九坂の今後のラブにも注目したいけど、九坂の苦悩をなぜか理解していた好葉の問題はまだ解決していない。
九坂にも新必殺技が生まれたが、想像に反してシュート技だった。守りに使えるブロック技だと思ってたんだけどね。敵の強力な必殺タクティクスを技も使わずに潰したからブロック技は要らないもかもしれないが。何度も言うが「鬼仏」状態の九坂はザナークをミキシマックスしたような状態だよね。
不良たちが途中で乱入して来たのは驚いたけど、天馬たちからしたら大したこと無かったかもしれない。前作では肉食恐竜が試合中に乱入してくることもあったしな。
さて次回は特訓パート。真名部が自身と似たようなメガネの人物と衝突して黄昏(たそがれ)ている場面があった。次の主役は真名部のようだ。衝突した人物はおそらく彼の父だろう。皆帆がどういう役どころになるかも気になる(つまりまだ見ていません)。
これまでシニカルだった真名部が物語の中心になることで、またドラスティックな展開になることが予測される。
黒岩がアイツだと思わせる実に示唆的な特訓があったりするんだけど……恐竜に追われる特訓シーンもあったし、これらは高度なCGを駆使しているのかな?
次回「特訓!ブラックルーム!!」に続く。
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