『かまいたちの夜2 〜監獄島のわらべ唄〜』の感想 【駄ゲーながら見るべきところもあり】


 今回は【積みゲーを少しずつ消化していこう企画第4弾】として、プレイステーション2サウンドノベルかまいたちの夜2〜 監獄島のわらべ唄〜』の感想。前回書いた『最終電車』もノベルゲームだったし、雰囲気的にこの類いのゲームを連続してプレイしたいという意識が働いてのチョイスだ。

 『最終電車』の時にも書いたけど、ホラーゲームは今からの暑い季節に合致している訳だし、しばらくはこういった選択をしていくかもしれない。気分で遊ぶのがゲームな訳で、気分屋な当方としては今後コロコロ意図が変わる可能性は大いにあるが。



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かまいたちの夜2 〜監獄島のわらべ唄〜

発売日 2002年7月18日

メーカー スパイクチュンソフト(旧チュンソフト

価格 6800円

対応ハード プレイステーション2

甘茶
駄ゲーながら見るべきところもあり(書き下ろし)


 初夏の訪れと共に強化したい【ホラーゲームを推進する市民の会(今作りました)】の活動。今回取り上げるのは『かまいたちの夜2〜監獄島のわらべ唄〜』の感想だ。

 前作『かまいたちの夜』がとても高評価だっただけに期待感の方もいやましてしまった感がある本作は、実は世間的にはあまり評判が良くない。それどころかクソゲー扱いされているレビューも少なくない。まぁその辺の理由は後述するが分からないでもない。



 主人公・矢島透(プレイヤー)は「監獄島」と呼ばれる孤島に赴き、そこで起こる様々な事件に立ち向かい、時には生き残りを賭けて行動する。プレイヤーの推理が自らを、そして他の登場人物の生命を救うこととなる、本格推理サウンドノベルの第二弾。

 前作が冬の雪山という設定だったが、本作はその趣きをガラッと変え、真夏の孤島という設定となっている。どちらも外部との連絡がつかず、しかも推理を放棄して逃げ出すことが出来ないという点では共通しているのだが……。



 さて、評判が芳しくないとはいえ、まずは本作に関して好感を持った部分を褒めていこう。

 やはりプレステ2というサウンドノベルをやるには十分すぎるスペックを誇るハードでリリースされた分、グラフィック周りが相当充実していた。当方はスーファミやプレステ版で前作をプレイしたのだけど、本作を開始してそのオープニングムービーから始まり、ストーリー導入部の船腹に打ち寄せる波のシーンを見ただけで絵的にはもう十分に満足していた。ハードの能力の差とはいえ、こんなに手が込んだモノを作れるのかと感心したのだ。



 オープニングムービー。実写にCGをふんだんに織り交ぜ、おどろおどろしい雰囲気が醸し出されている。雅楽を取り入れ、古風で和風な音楽も意外なほどムービーに合っている。陰鬱な島の様子や、主な舞台となる三日月館、その物置部屋に置かれた異様なオブジェなどは雰囲気がよく出ている。


 登場人物は青いシルエットで表現されるのが『かまいたち』シリーズのパターンなんだけど、それも前作のようにのっぺりしたものではなく、陰影がくっきりと判別でき、その動きもモーションエフェクトを見ているようで自然。音楽もどれも雰囲気に相まって素晴らしい出来で良い印象。とにかく「見た目」というとっつき部分では正直完成されまくっていて、非の打ち所が無い。



 そして楽しくプレイする上で結構大事なゲーム周りのシステム面もかなり強化され、シナリオの読み戻しやフローチャートを見ながらの選択肢のチョイスなどが容易に出来るようになっている。またゲームの中断時に使用するしおりなども前作と比較して使い勝手が良くなっており、ご丁寧なことにオートセーブ機能まで用意されている。このシステムは次作の『かまいたちの夜3』にも受け継がれたほどで、ほんのわずかな改良が望めるとしても、おそらくは本作のこの形態がサウンドノベルにおける最終型と言えるだろう。

 また全体の文章量も相当増えており、エンディングの数の単純比較では前作の2倍以上の結末数となっている(前作は46、本作は105のエンディング数)。またそれだけに上記したフローチャートを駆使しての読み返しなどのシステム面が大事となってくるのだ。エンディングが多い分、こうした遊びやすさがストレスの軽減に繋がる。



 ……という訳で、今度は本作がクソゲーと言われる所以、当方がプレイして不満に思った部分の言及をしたい。

 さっき本作を褒めた時にシナリオ数が多いとか文章量が増えたとか、そういう点ばかりを褒めどころに選び、シナリオ自体を褒めていないということにお気づきであろうか? 前作が吹雪に閉じ込められた雪山のペンションで次々に起こる殺人事件、そして誰が犯人であるか分からないという状態で必然的に起こりうる登場人物内での疑心暗鬼。主人公(=プレイヤー)の推理力と果断な決断力に訴えかけ、推理を間違える度に事態は悪化していく(最悪は主人公や恋人の死)という、いずれも本格的な推理サスペンスで見られる展開となっていて息をもつかせない没入感があった。

 ところが本作はメインとなるシナリオである「わらべ唄篇」でこそ推理モノを満喫する楽しみがあるのだが、それ以外はサスペンスというよりむしろホラー的なジャンルのシナリオで、そういった部分を『かまいたち』に求めていない層には受け入れられ難かったのだろうと思われる。当方はそういうシナリオも嫌いではないので評価はやや甘くなるのだけど、それでもメインの推理モノが前作と比較して陳腐すぎで、満足度は決して高くない。

 またホラー系に含まれるシナリオの場合、結末がひどくて閉口したという気がする。選択肢的にベストの展開になったはずなのにどう見てもハッピーじゃないエンディングを迎えるとか、個人的にそれは納得がいかない(それ以外の展開でも、結局は救われない)。

 怖いと言うよりグロいというか、生理的な嫌悪感を前面に押し出してくる展開も辛い。虫が嫌いな方は「底蟲村編」はクリア不可能なんじゃないかな? グラフィックの良さが裏目に出ている感じ。当方はまだ耐えられたが、耐えられなかった人も多かったと思われる。


 そして他のシナリオも薄っぺらい内容のものが捨て置けない量で目について、その辺の評価もマイナスにならざるを得ない。100を超えるエンディングというのも、こうなると逆効果だ。選択ミスで即死とかはノベルゲームではよくあるものだが、ある程度の説得力を持った展開で死なないと、こっちだって納得して死にきれない(この場合の「死にきる」というのは、気持ちを切り替えてリプレイするにあたっての心の準備というもの)。作り手がそこをわきまえていないと、エンディング回収という本来は楽しい事象が単なる煩雑な作業と化す。


 結論を言うと、この手のゲームの場合、結局はシナリオ命なのだ。幾らグラフィックが優れていようと、シナリオが及第でないと、途端にダメゲーとして批評されてしまう。それはノベルゲームの宿命ではあるが、本作はまさにその陥穽に嵌まった代表作という扱いを受けている。前作が良作だっただけに、なおさらそういった評価が多くの既存プレイヤーの意識に固定するのだろう。

 ただまぁ、そこが本作の辛いところでもあるのだ。つまり本作が『かまいたち』シリーズの第二弾でなければ評判はここまで悪くなかったと思えてならない。

 監獄島の別名を持つ三日月島、そして三日月館という舞台設定はおどろおどろしくて良いし、個人的にエンディングの後味の悪さを除けば「底蟲村編」は嫌いじゃないし、「陰陽編」の緊迫感はなかなかのものだ。「官能編」での登場人物の一人、久保田みどりさんの腰使いは男性なら必見だと思う(これはグラフィックの進歩がプラスに作用した部分。あまりにエロいので年齢制限した方が良いと思うぐらい)。



 これがその問題のシーン。これがグリングリンものすごい腰つきで動くのだ! 性表現や暴力描写など倫理面にうるさいソニーチェックをよく通ったものだと思う。これで何かに目覚めた方も多いかもしれないが、雑誌取材によるとこのモーションを担当したのは男性らしいという……。それを知って別の面で目覚めること無きよう。
 

 個々では結構光る面もあるというのに、なまじあの名作の続編という立ち位置が、本作をして駄作というポジションに貶めてしまったと言えるだろう。

 本作は「前作はゲームの中の話でしたとさ」という強引な切り捨て方で前作の設定を台無しにしたというひどい前作レイプがあり、それも評価が悪くなった大きな要因の一つだろう。またそれ以外にも大きな矛盾点や推理面で根本的に無理のある設定が幾つかあり、その辺も含めて次回作である『かまいたちの夜3』である程度の補完がなされている(それでも全ては補完しきれなかったのだが)。そういった意味において本作は『かまいたちの夜3』と合わせて評価するべき作品だという気はする。

 前作と違い、本作は3人の作家がいろいろなシナリオを担当するという分業制を採用したそうだ。それがまとまりのない、かつ前作が好きな人の嗜好に合わない内容となった理由だろう。我孫子武丸という作家が前作の雰囲気を築いた訳だが、本作では我孫子武丸本人がやたらと登場して、楽屋落ち的に物語の雰囲気を壊したという面も否めない。


 ただ推理サスペンスよりもグロテスクなホラーが好みだったら本作はむしろオススメ。その方が嗜好にあったという人も少なくないのだろう。「底蟲村編」の重要な唄「みのむしぶらりんしゃん」の歌詞は未だにパロディで見かける。

 個人的には『かまいたちの夜』の続編という意識をあまり持たなければ、結構楽しめるとは思う。評判が悪い分、安く入手できる訳で、興味があるのならぜひ試してみてもらいたい。リメイクされたPSP版も頒布されてる。

 『かまいたちの夜』シリーズは無印から『3』までプレイしている。機会があれば他の作品の感想も書きたい。私の場合、連作ゲームの感想をなぜか『2』から書き出すという悪癖があり、他の感想が滞るということがよく起こってしまうのが恐縮だけど(今回もそうなってしまった)。


 スパイクチュンソフト(旧チュンソフト)はサウンドノベルの草分けだし、そのノウハウも技術も卓越したものがあるのだから、ぜひ頑張ってこのジャンルを盛り立てて欲しい。夏の暑い夜にプレイする恐怖系サウンドノベルは、日本の大事な文化だ。



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