『零 〜月蝕の仮面〜』 画竜点睛を欠く出来ながらもWii最高のホラーゲームの感想

 あけましておめでとうございます。

 本年も変わらぬご愛顧を宜しくお願いします。前回エントリーであからさまに露骨にコメントを求めながらも、結局反応がゼロだった事に激しく落ち込みながら更新をします(ウソですが、私の心は泣いています)。


 新年の一発目は、当方が入れ込んで感想文を書いた恐怖ゲームの『零』シリーズで行きたい。昨年2つの感想を紹介した流れもあるし、今回は『零』シリーズの第4作、プラットホームをWiiに変えての最初の作品『零 〜月蝕の仮面〜』(ぜろ つきはみのかめん)の感想文を紹介しようと思う。

 実は本作は看過できないレベルの、大きなバグがある。メーカー側は未だに修正版を出さないのだが、当方は未だにその完成版を待っている。それだけの価値があるゲームだと認めているからだ。本作の製作はテクモ(現コーエーテクモ)で、販売は任天堂らしいが、『零』ファンとしてはどっちでも良いから、さっさと責任取って欲しい。画竜点睛を欠いている事で、本作は超名作の地位に付けていないと思うんだよね。当方はこの「はてなダイアリー」という場を借りて、修正版を出すようにメーカーサイドに正式に求めるものである(あすかあきお調)。

 まぁバグに関しては、感想文中でも触れているのでここで繰り返す事は避ける。身も凍るような怖さの恐怖ゲームの感想文を、大雪の降りしきるお正月に紹介するのは気が引けるのだが、あまりの暑さに気も狂わんばかりだった去年の真夏を回想しながら、どうぞ。



 第1作の『零』の感想文は、こちら。
 前作の『零 〜刺青の聲〜』の感想文は、こちら。


甘茶さん の「零 月蝕の仮面」 (Wii)
こんなに遊ぶことを恐怖したゲームはないが……
 未完であるがゆえの魅力というのもまたあると思います。ただ、やはり広げた広敷はどんなたたみ方であれ、たたんでほしいのもまた事実ですしね。次作に期待しましょう。

甘茶
こんなに遊ぶことを恐怖したゲームはないが……(2009.09.04)
 残暑といえば怪談。残暑といえば怖いゲーム。

 ……いきなり無理筋の書き出しだが、当方の投稿のペースが遅く、盛夏に間に合わなかったホラーゲームの感想を9月に書くに当たって捻り出した新フレーズである。来年の夏まで待っていられないので、ご容赦願いたい。今回は、プレイを焦がれる思いを含めては2年越しとなる『零 〜月蝕の仮面〜』の感想だ。ようやく感想が書けるという喜びにうち震えている。プラットフォームをWiiに移しての、最初の『零』シリーズであるが、『零』シリーズはこれで最後となる可能性も否めないので、気分は複雑(理由は後述)。


 過去の記憶を失った5人の少女のうち、2人が相次いで謎の死を遂げた。彼女たちは出身地、朧月島(ろうげつとう)で10年前に行われた儀式「朧月神楽(ろうげつかぐら)」で巫女を務めたという共通点を持つ。その朧月神楽と、その後に起こった神隠しの間に失われた記憶、そこに友人の死の原因があると考えた残り3人の少女は、相前後して朧月島を訪れる。一方、10年前に少女たちを助け出した元刑事「霧島長四郎(きりしまちょうしろう CV:小西克幸)」も、主人公「水無月流歌(みなづきるか CV:能登麻美子)」の母に依頼され、再び彼女たちを救うべく朧月島に向かう。儀式の失敗により永遠の虚無の眠りに落ち、目覚めるはずの無い状態から目覚めた女性「朔夜(さくや CV:田中理恵)」。その呪いによって住人全てが一夜にして忽然と姿を消した、恐怖の曰く付きの島に……。


 まずはゲーム内容を徹底的に褒(ほ)めちぎろう。最高である。こんなに遊ぶことを恐怖したゲームは他にない。『零』シリーズは恐怖ゲームというジャンルに於いて、常に前作という高いハードルを越えなければならないという宿命的難問に行き当たり、かつそれをクリアし続ける事に成功している稀有な例を持つシリーズである。製作サイドのその手腕には今回もまた脱帽だ。今回の舞台は無人になった島の病院で、これまでと違い洋館風の建物の探索となる(もちろん例によってお化けの出そうな廃墟なのだが)。日本家屋の廃墟と比較して「恐怖感はどうなのよ?」とプレイ前は少々疑問視していたのだが、要らぬ心配(?)だったようだ。病院とその療養宿泊施設という舞台が何より効果的だったようで、ゆっくりと開けたドアから向こうを窺い、何も居ないのを確かめていざ振り返った時にドアの裏の死角からヌッと顔を出す霊の姿を見た時はね、もうね、泣きますよ。看護婦の霊が誘うように姿を消して行った病院地下の死体安置室のドアなど、そりゃね、開けたくないですよ。手術室の台の上の物体を覆う布など、いくら確認が必要だと分かっていてもそのままにして一刻も早く逃げ出したくなりますって!(泣き笑い)

 Wiiのリモコンの操作性に関しては、これまでとずいぶん勝手が違っているので最初は戸惑う。最初と言わず、暫く間を開けるだけでも極めてまずい。それ程までにこのコントローラーは「慣れ」が必須である。当方は一度クリアした後、今回の感想を書くために数カ月ぶりにリプレイしてみたのだが操作性に戸惑い、ファーストプレイよりも早い段階でゲームオーバーになってしまった程だ。ただ、コツをつかんで慣れてくると、基本動作に関しては、これがまさに「手に馴染む」という表現がピッタリの操作性となる。強化レンズやフィルム交換など、怨霊が目前にいるという時に煩雑で複雑な操作を求められて「人間の手の構造無視かい!」的なツッコミを入れたくなる部分はあるが、探索時は快適にプレイできる仕様になっている。複雑な操作法は一考の余地があったとは思うが……。いきなり怨霊に襲われる事が多い本作では、慌てて正しい操作など出来ない事が少なくないのである。ゲームのタイプとして、操作法はシンプルである事が要求されるジャンルであると思う。

 ストーリー性も今回は秀逸だ。プラットフォームを変えたせいなのか、前作までの三部作との接点はほとんど無くなっている。共通点としては、射影機の発明者の子孫として過去作にも出ていた「麻生」という姓。その名のキャラ「麻生海咲(あそうみさき CV:沢城みゆき)」がプレイヤーキャラで出てくるぐらい(この海咲と流歌、そして月森円香(つきもりまどか CV:後藤沙緒里)の3人が、物語の開始時に生き残っている3人の少女であり、霧島と合わせてプレイヤーが操作するキャラである)。

 それでいて今まで同様、いやそれ以上のドラマ性を作中キャラに持たせている。悪だとしか思えない怨霊たち、全ての原因を引き起こした黒幕たちも含めて、作中入手できる資料から浮かび上がって来る登場人物たちの深い人間性とそこからプレイヤーサイドに投げつけられる悲劇性、やり切れない諦念感、ゲーム中恐怖に脅かされ続け苦労させられ通しだったプレイヤーの疲労感も含め、味わった全感覚を達成感に昇華せしめる意味合いでの、全てが浄化されるラストシーンの感動……。

 記憶を失い、大事な人の顔ですら思い出せなかった主人公、流歌が最後に見るその表情はとても穏やかで、プレイヤーである当方が求めて止まなかったものでもあった。当然、号泣である(苦笑)。このエンディングは、本作のOP・EDテーマ曲を提供する事を持って惜しまれつつ休止状態に入ったアーティスト、天野月子の素晴らしい歌声で彩られている。『紅い蝶』以来3作目になる彼女のテーマ曲だが、今回は今までで最もゲーム内容と親和性のある歌詞で、作中主人公の心情を見事に歌い上げている。このエンディングムービーは必見、かつ必聴である。

 あと前作までと同様、周回クリアによる特典もあり、登場人物を着せ替えたり出来る楽しみもある。今回は任天堂が版権を得たということで、おなじみ『メトロイド』シリーズのサムス・アランや『マリオ』シリーズのルイージのコスプレが出来るなど、独自の楽しみもあるのが嬉しい。本作隠れキャラの愛らしい鬼灯(ほおずき)人形の撮影など強いやり込み要素も見受けられるが、後述の理由から本腰を入れる気になれないのが残念である。


 ひと通り褒めた後は、どうしても言っておきたい苦言で締めたいと思う。言いたくは無いのだが、本作は失敗作である。本作にはバグが幾つかある。全体的な面での出来が非常に良かった分、その失望感は大きい。ただ当方が真の意味で失望したのはその点では無い。ゲームに限らず、作品を製作するに当たって無謬を貫徹する事は非常に困難である事は良く分かる。本当の問題は実はミスが発覚した後の対応なのである。メーカーサイドはバグが発覚しても修正の対応を一切取ろうとしなかった。何と勿体ない態度であろうか? バグをそのまま捨て置くのは、ユーザーに対するゲーム業界の大きな背信であるとさえ言い切る。それほどまでに、本作は画竜点睛を欠いた名作なのだ。これでバグが無ければ、本当に非の打ちどころの無い素晴らしい出来であったのに……!! おなじみの天野月子のテーマ曲が今後期待出来ないのと共に、メーカーサイドのこの度の態度を見るにつけ、『零』シリーズはこれで最後なのではという気持ちを否が応でも持ってしまうのである。これが最後の作品だとしたら、何と不幸な扱われ方なのか……。作品としての本作が不憫でならない。

 長くなりそうなので打ち切るが、本当は五万言ぐらい不平不満を言ってやりたい気分である。やり込みが好きなプレイヤーは当方と同様の感想を抱いていると思う。本当に勿体ない……。最後にあえてもう一度言おう。本作は、未完の名作であると。


 「『零』シリーズがこれで最後なのでは……?」という不安は、どうやら杞憂だったようだ。続編の『零 新作(仮称)』が今年2011年に発売されるという発表があったのだ。この辺の情報は、またブログで話題にするかもしれない。とにかく続報が待ち遠しいね。

 もうね、ワクワクして待つよ! アデランスの中野和雄ばりに女房を質に入れてでも予約して購入するから、バグだけは勘弁してね。今度こそ。

 また、休止していたアーティストの天野月子も、名前を天野月と変えて昨年より活動を再開している。今ではこの人の歌が無いと『零』じゃないとすら思えるので、これも吉報。きっと次回作の主題歌も歌ってくれる事だろう。


 本作は能登麻美子(「CLANNAD」の一ノ瀬ことみ役や「地獄少女」の閻魔あい役など)や田中理恵(「あずまんが大王」の水原暦役や「機動戦士ガンダムSEED DESTINY」のラクス・クラインミーア・キャンベル役など)といった超人気女性声優を重要キャラに起用している事から、ヒロインキャラの3次元的でない美麗さも相まって、声優ファンにおもねった声優キャラゲーという、愚にもつかない評価をしている内容をネット上で見かける事が、残念ながらよくある。プレイした当方から言わせれば、それは全く当たらない評価である。確かに人気声優を起用しているが、それはおもねりでも何でもない事はプレイしてみれば良く分かるはずだ。当方なんか、彼女たちがこの様なホラーゲームのキャラの演技ができるという事に驚き、そして賛嘆したものだけどね。

 バグに関する批評には傾聴に値するものが少なからずあったし、当方も本作のバグには大いに批判的だから同意できた。声優がどうの、絵柄がどうのといった「ためにする」批評は観ても参考にならないし、第一面白くない。




 オープニングテーマ曲「ゼロの調律」に合わせてのPV(プロモーションビデオ)動画。深刻なネタバレは無いと思われる(甘村淳の主観であるが)。謎解きのキーワードや登場人物の姿や声など、文章で語り切れない部分が分かり易くまとめられている。動画って凄いね。百万言費やしても、この説得力には勝てない。また、天野月子の歌声の方も、是非聴いてみて欲しいと思う。



 エンディングテーマ曲「NOISE」。エンディングは激しくネタバレする恐れがあるので、動画の無いこれを選んだ。この歌詞は本当に素晴らしく主人公の心情に一致している。天野月子は『零 〜紅い蝶〜』以降の本作シリーズのテーマ曲を歌っているが、その歌を作詞する際、ゲームをプレイした上で作詞するという。であるからこそ、ここまで内容に沿った歌詞が書ける訳であり、その姿勢もまた『零』シリーズの主題歌を歌うに相応しいのだと思う。

 しかもゲームをプレイしないで聴いた印象と、プレイし、かつクリアした後で聴いた印象がまた違って聴こえるという秀逸さ。この曲は(他の曲も)クリア後にもう一度聴いてみてもらいたい。



 『零』シリーズを語るのに、もはやこのヘタレ外人の動画は欠かせないだろう。怖いシーンのネタバレになっているので、知りたくない人や、『零』シリーズに笑いなど要らないという方は観ないで欲しい。

 0分11秒辺りで撮影した音と光でビビっとるヘタレがいて笑う。いつものブラッドの様だ。しばらく観ていると気付くのだが、プレイしているゲームがなんと日本語版なんだよね。アメリカ人プレイヤーは、ちゃんと内容を理解できているのかなぁ? ストーリーは深いんだし、理解してて欲しいんだけど。


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浜村淳並みのネタバレ必至の追記(ご注意)】
 本作終了後、既存の三部作をクリアした時よりもずっと大きく深い憂愁、喪失感に陥る。その理由は明記しないが、登場キャラクターたちの物語の最終部で果たす役割が、既存のシリーズのそれとは違うとだけ言っておく。

 特に霧島長四郎の存在、というか扱われ方は異質で、彼が救おうとした少女たちの為にも事態の核心部で暗躍する医師「灰原耀(はいばらよう CV:櫻井孝宏)」の野望的行動を抑止しようと、射影機も持たずに奮闘する(「霊石灯」という独自の武器で霊と対峙する)存在なのだが、実は……という役どころ。最後は極めて意外な展開を見せるのだが、彼に娘の保護を託した流歌の母「水無月小夜歌(みなづきさやか)」の存在と共に、印象深い結末を迎える事になる。是非本作をプレイして、その辺を確認してみて欲しい。上記感想文中でも触れたが、灰原の側の立場も非難しきれないシンパシー性ある物語作りになっていて、一筋縄では無い。

 海咲と朔夜との関係と、人形に込められた想い。常に海咲にリードされ、恐怖の島に来る事すら断れなかった円香の性格。朧月島の風土病、月幽病に於ける「咲く」という言葉の意味(これは「朔夜(さくや)」の名前にも掛かっている)。物語を追ううちにプレイヤーに伝わって来る、それらのキャラクターの描かれ方や舞台背景、そこから去来する最終的な結末なども感慨を抱かずにいられない。これらのストーリー部分の造り込みの丁寧さも、本作に限らない『零』シリーズの良い特徴であり、見どころであり、堪能のしどころだと思う。

 エンディングでは、大きな感動がプレイヤーを包む。多くの人に、この感覚を是非味わって欲しいとも思う。前作までの『零』と違って、無条件のおススメにはバグの存在が障壁であるが、ストーリー性を重視してゲームの出来を判断する向きの方には、おススメしたい作品である。

 ……もうちょっと基準を緩めて、純粋にゲームを楽しめればそれで良いという人ならおススメ。完璧なクリアデータを残したいというタイプ以外の人には、おススメしたいと思う。

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