『マリーのアトリエ 〜ザールブルグの錬金術士〜』 モノづくりの喜びを実感するシリーズ第1作の感想文

 いつのまにか、このブログを書き続けて102回が過ぎていた。国全体に、日常生活にまでかかわる大変な事態が起こってしまったので、うっかり忘れてしまうのも無理はなかったと思うが、実は100回記念に挙げたいと思っていたゲーム感想文があった。

 それが今回の『マリーのアトリエ 〜ザールブルグ錬金術士〜』の感想文。当方的に、書きたい事を書き尽くした会心の出来の感想文で、今も気に入っているモノなのだけど、【ゲームクエスト】の月間賞にはかすりもしなかったという、何か納得の行かなかった思い出もあるモノ。

 「あと一歩で賞」の最終選考にすら残らず、その月の当方の投稿作で最終選考に残ったのは、決して出来が良いと思えなかった『バイオハザード3 ラストエスケープ』の感想文だったりする。『バイオ3』の感想文も、いずれここで掲載する予定なのに、こんな事言うのはまずいかな?(掲載しました)

 他の思い出としては【ゲームクエスト】掲載時がサイトの正月休み直前という事もあって、お盆休み前の『零 〜刺青の聲〜』の時の感想文と同様、長期に渡ってこの感想文タイトルがトップページに掲載されていたという点。嬉しかったけど、その演出は「ひょっとして、月間賞?」と意識するのも無理ないよね?(過ぎる自惚れ)


 【ゲームクエスト】の方針に合致しなかったのかもしれないけれど、とにかく当方的には好きな感想文なので、100回記念に使おうと思っていたのだ。

 また現在の日本の状況を鑑み、このゲームが発する「モノづくりの喜び」というメッセージが、日本のこれからの在り方についてのメッセージ足りうるのではないか、とも思えました。そういう次第で掲載する事にしました。103回記念になってしまったけど、読んで頂けると嬉しいです。


甘茶さん の「マリーのアトリエ 〜ザールブルグ錬金術士〜」 (プレイステーション)
心憎いまでの演出が光る
ファンの多いシリーズですが、こうしたきめの細かい作りがファンの心をつかんで離さないのでしょう。私もあのイラストは好きです。

甘茶
心憎いまでの演出が光る(2008.12.26)
 モノ作りの楽しみを実感する。

 モノ造りのやり甲斐を実感する。

 モノ創りの喜びを実感する。

 ……本作は、その様なゲームだ。


 今回は、ガスト社をこれ一本で一躍有名ゲームメーカー足らしめた作品『マリーのアトリエ 〜ザールブルグ錬金術士〜』の感想だ。プレイヤーは、中世ドイツ・オーストリアを連想させる都市「ザールブルグオーストリアの都市「ザルツブルグ」がモデル?)」の錬金術アカデミーの史上最低の落第生「マリー(CV:池澤春菜)」となり、留年免除の為、5年の間「錬金術によるアトリエ工房(実は何でも屋)」の経営を半ば強制されながら、様々な依頼やアカデミーの課題をこなしていくという役どころだ(これが、そもそも留年だという説もあるが)。

 ストーリーを進める間、マリーは幼馴染みや学友との友情、担当教官「イングリド(CV:大沢つむぎ)」との厳しくも麗しい師弟愛、男性冒険者との間に芽生えるほのかな恋愛感情など、10代後半の少女にとって情緒形成上安からざる心の機微に触れ、錬金術士のみならず人間としても大きく成長して行く。その成長を、当事者的努力を込めて叙事・叙情的に見届ける事、これがプレイヤーの目的となる。


 このゲームのキモは、何といっても物質からより高度な物質を作り出す(究極的には、土くれから金(きん)を作り出す、という意味合いでの)、「錬金術調合」のシステムであろう。ただ当然ながら調合には基になる物質、材料が欠かせない。という訳で、最初は材料調達の手段を考えなければならない。

 材料を入手する為に、マリーは安全な街を出て色々な採取場へ出掛ける事になるのだが、本来冒険者では無い、か弱い少女であるマリーだけではどんな危険な目に遭うか分からない。そこで頼りになるのが酒場などで雇える傭兵たちだ。当然ながら護衛費を取られるが、彼らからの頼み事(当然、錬金術関係が中心)を聞いてあげると“友好度”が上がり、護衛費の方もディスカウントしてもらえる。ゲームシステムとしてはもっともな設定だが、些(いささ)か世知辛い気もする。

 特に最強キャラの王室騎士隊長「エンデルク(CV:小杉十郎太)」は法外に高額な雇用料金で値打ちをおこきになられるので、暫くは縁遠い存在である。序盤はマリーの路銀も少なく、仕方なく幼馴染みの「シア(CV:大沢つむぎ)」とアカデミーの同級生の「クライス(CV:子安武人)」に付いて来てもらったものだ。……無料(タダ)だから。


 ひと通り、材料となるアイテムを採取して工房に戻ると、お待ちかねの調合タイム。最初は大したものを作る事は出来ない。【魔法の草】から【中和剤(緑)】を作ったり、【へーベル湖の水】から【蒸留水】を作ったりと、如何にも初歩的でチープな錬金術士だが、そこが良いのだ。

 ゲーム開始直後は入手出来るアイテムもショボいし、落第生のマリーには、そもそも基礎中の基礎の調合知識しか無い。それが冒険や学習での経験と錬金術の造詣、知識の蓄積により、高度な物質を調合する事の出来る、一流の錬金術士に成長して行く。バランスの取れたその成長の過程での楽しさ、面白さ、趣深さに於いて、シミュレーションタイプのゲームの中でも本作は白眉であると断言する。目新しいもの、今まで知らなかったものをどんどん作り出せてしまう事による、知的好奇心、知的探究心の充足は言うに及ばず、無力だった当初と比較しての、カタルシス以上の一種の万能性まで感じられて痛快ですらある。


 またプレイヤーの達成感を逆手に取る、巧みな演出も施されている。序盤から名前だけは知っている【コメート】という高価な宝石を、やっと作れる様になった時の喜びは今でも忘れられないのだが、秀逸な事にこの【コメート】、別にマリーの最終目的でも何でもなく、より高度な物質を作る為の、飽くまでも過程のアイテムなのである。「序盤から名前だけは知ってい」たという、この設定が達成感を絡める事によって、こちらの意識をより強く高揚させたのだ。全く心憎いまでの演出である。


 採取、調合を語る上で、「妖精さん(CV:大沢つむぎ)」に言及しない訳には行かないだろう。ある地点で出会う「妖精族の長老(CV:村松康夫)」に要請(←シャレ)する事によって、マリーの工房に妖精さんが採取、調合のお手伝いに来てくれるのだ。妖精のお手伝いとは、「靴屋のこびと」の童話の様で、一見ファンタジックかつメルヘンチックで素敵な気がするが、世知辛い事に妖精の雇用も“有料”だ。

 おまけに能力によって値段が違うという、現実的能力主義派遣社員主義的なシステマティックっぷりに涙目モノだが、彼らの力を借りないと良好なエンディングを迎えるのは困難なので、涙をぬぐって彼らを雇う当方。心情的には一番能力に劣る「黒妖精さん」を雇ってやりたいのだが、涙を偲(しの)んで一番優秀な「紺妖精さん」を雇う当方。不況の折、少しでも優秀な社員が欲しい中小企業経営者の悲哀とか、色々考えてしまう当方……。罪作りね、このシステム。


 なお完全に余談だが、長旅から戻って来た時、する事が無くて踊っている妖精さんを見て、 (*´∀`)「あ、可愛い〜!!」と和める様になれば、アトリエ経営は順調という証。逆に (#゚Д゚)「サボんな、ゴルァッ!!」と怒りだしたら、余裕無くガツガツしている証。ちなみに、当方はいつも後者。そもそも仕事の割り振りが下手なだけかも知れないが……。


 本作頒布の折は、失礼ながら“ガスト”という社名もあまり周知されていなかったと思う(ガスト社の処女作『ファルカタ』は、当方も最近までどんなゲームかは勿論、存在すら知らなかった)。むしろ本作ヒットにより、「ガスト……? あぁ、あの『マリーのアトリエ』の……」という認知のされ方が多数派であった訳で、有名ゲームの続編でも無い場合、ユーザーの多くは「見た目」で判断するものであるからして、桜瀬琥姫さんによる粋なキャラクターデザインは本作ヒットの主な要因だったと思う。当方が本作に興味を抱いたのも、『ゲーメスト』誌で見た桜瀬さんのファンだったから。

 お色気があり、それでいてエロスが過剰でないマリーのキャラデザは、他の登場人物も含めて、世界観にもマッチしていて好意的に受容されたのではないだろうか。シアや妖精さんの天真爛漫な可愛さや、怒った時のイングリド先生の恐ろしさ、「武器屋のオヤジ(CV:立木文彦)」のウザさなど、文字通りのキャラクター性が伝わってくる、最適の絵師さんであったと当方は思う。


 音楽もテンポ良く、天気の良い時や気分の良い時などに、つい鼻唄で諳(そら)んじてしまう程、中毒性のある軽快さだ。ゲーム内時間で5年間という長めのプレイスパンを、センス溢れる素敵な曲が苦に感じさせない。やり込みゲーでもある本作では重要なファクターだ。


 本作は面白い。これって、本来的にモノ造りが好きで好奇心旺盛な、日本人の気質に非常にマッチしたゲームだと思う。それは現在でも本作の遺伝子を受け継いだ続編的作品が輩出されている事からも推測出来る。

 この錬金術調合、次作『エリーのアトリエ』以降のシリーズでは、より複雑高度多様なシステム(「ラフ調合」の概念は、シリーズ中最高のシステム内システム)で楽しませてくれる。アイテムやストーリーイベントなどの数も次作以降ではより充実していて、先行の本作は単純に比較すると見劣りしてしまう。ただそれは後発の作品を体験した今の目線でものを言っているに過ぎず、本作こそ後のシリーズのオリジンであり、エポックメーキングたる本作は、それだけで称賛に値すると思う。こんなに面白いゲームを作ってくれた事に感謝したい。


 日本が大変な時。この日本を立て直すのは、日本人の勤勉さと、モノづくりの大切さを実感した上で、それを成し遂げる事に喜びを見出す事にあると、当方は思います。そして本作は、そんな事を思い出させてくれるゲームでもあると思います。自分にできる事を、一歩ずつ、そして諦めず、マリーの様に前進して行きましょう。



 本作は当時のゲーム製作の予算的なものだったのだろう、声優さんの使い回しが凄まじかった。21人の登場人物を8人で演じているのは、改めて調べてみて驚愕した。

 主人公のマリー以外は2役3役は当たり前で、友人シア、イングリド先生、妖精さん、傭兵「ミュー・セクスタンス」の4役を演じた(妖精さんはさらに3人いるけど、区別が付かない設定なので1人とカウント)大沢つむぎさんは凄いと思う。



 仕事の依頼を受けるのは酒場というのがファンタジー世界のお約束。左から傭兵「ルーウェン・フィルニール(CV:小杉十郎太)」、酒場の看板娘「フレア・シェンク(CV:金月真美)」、南国出身の傭兵ミュー、親友のシア、酒場の親父「ディオ・シェンク(CV:立木文彦)」、主人公マリー、傭兵「ハレッシュ・スレイマン(CV:小杉十郎太)」。そして本作の裏の主人公とも言える、「樽」。
 


 本作と、次作である『エリーのアトリエ 〜ザールブルグ錬金術士2〜』の2作をセットにしたPS2版のリメイク作品の店頭CM動画。絵が綺麗になって、動画も増えているけど、基本の楽しい部分は変わりない。ある意味、ゲーム的には第1作である本作で完成されていたと言える。



 本作がブレイクした事で誕生したラジオ番組「池澤春菜のみんなでたーる」。その第1回は、マリー役の池澤春菜さんがマリーの声で本作製作者のガスト吉池真一氏にインタビューするという夢展開。当方も面白く、懐かしく聴きました。納豆嫌いなところが凄く共感。

 ゲームの「調合」まんまに、いろんな食材を混ぜて飲む企画「今週の調合」も断行! 作ってるのがマリーなだけに、失敗も多かった様ですが……。

 あとゲーム中に流れるBGMがこの動画内でもふんだんに使われているので、ぜひ聴いてみて欲しいです。


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