『イナズマイレブンGOギャラクシー』第5話「イナズマジャパン脱退試験!」の感想 【まさか鉄角が最初にデレるとは……】

 恒例のアニメ感想文第5回。今回は『イナズマイレブンGOギャラクシー』第5話「イナズマジャパン脱退試験!」を観ての感想を書く。脱退するためのあまりにイージーな試験、その裏に隠された真意が今回の見もの。そしてこの試験を経てイナズマジャパンには真の強豪チームにつながる展望が拓(ひら)かれる。


 当ブログは、『イナズマイレブンGOギャラクシー』を視聴しての感想を、自分なりに面白いと思えるよう、コミカルにそしてシニカルに描く事をモットーにしています。その事に不快を感じる方はご覧にならないよう、お願いします。


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『イナズマイレブンGOギャラクシー』第4話「チーム結成の謎」の感想 【小悪魔さくらちゃんの謎】
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 少年サッカー世界大会「フットボールフロンティアインターナショナル(通称FFIV2)」アジア予選に臨む松風天馬(CV:寺崎裕香)たち新生【イナズマジャパン】。だが天馬たち雷門中出身の選手たち以外はこれまでサッカーを経験したことがない初心者集団だった。

 なぜそのような素人(しろうと)たちを代表選手として起用したのか? 監督である黒岩流星(CV:佐々木誠二)の采配に謎が感じられる中、選ばれた選手たちもそれぞれ何らかの見返りを求めてイナズマジャパンに参加していたことを天馬は知る。

 サッカーが好きというわけではないまま代表選手となった彼らも天馬たちとは別の意味で不満を抱いていた。黒岩はそんな彼らに入団時に契約した望み通りの報酬を約束しながら、試験に合格すればイナズマジャパンからの脱退を認めると言う。

 それはまさに入団試験とはまったく逆の意味合いを持った『脱退試験』であった。



 神童拓人(CV:斎賀みつき)は黒岩の思惑を測(はか)りかね、その真意を問う。だが黒岩はその質問には答えず、この試験が終わる頃には誰もチームを抜けるなどとは言い出さないと自信に満ちた笑みを浮かべる。

 入団を制限する試験はあり得る話だが、退団を制限する試験などあるのだろうか? その試験がどういうものなのか天馬たちにも想像がつかないのだが、黒岩はとにかくそれをもって閉塞(へいそく)したチーム事情まで一変させる確信があるらしい。その瞳を隠すサングラスが不気味に光る。



   オープニング




 監督の宣告を受け、一時控え室に戻ったイナズマジャパンを思い沈黙が包み込む。誰もが監督の真意を掴みかねていたのだ。野咲さくら(CV:遠藤綾)は黒岩が代表を辞めて良いと言っているようにしか思えないと語る。



 場面は黒岩が彼らに試験のことを告げたグラウンドでのシーンに巻き戻る。

 事前に黒岩から告げられた試験内容は「PK戦」。シュートは5本ですべてを外せば試験は合格という。それには天馬が「5本決めたら」の間違いではないかと異を唱える。意図的にシュートを外すことなど誰にも出来る芸当であり、そんな試験をすれば簡単に脱退が可能となる。

 さらに驚くべきことに、黒岩はキーパーをも置かないと言う。それは無人のゴールにキッカーが一人で対峙し、しかも外せば合格という、まったく試験の意味をなさないむちゃくちゃなものであった。

 さすがにその宣言はチームではキーパーを務める井吹宗正(CV:鈴木達央)が驚きの声を上げる。さくらはその試験のあまりのイージーさに拍子抜けし、皆帆和人(CV:代永翼)は失敗する方が難しいと推理するまでもない当然の感想を声に出す。

 だが黒岩は彼らの「簡単だ」という言葉を言質(げんち)に、それでもこの試験に失敗した場合はイナズマジャパンとしての本格的な特訓を受けてもらうと告げる。

 そして残留したい者は試験を受けなくとも良いと語り、各自が自らの考えに基づいて行動するよう厳命する。



 黒岩の思惑を(たぶん)数学的帰納法に則(のっと)って計ろうとする真名部陣一郎(右 CV:野島裕史)とお得意の推理力で判断しようとする皆帆の頭脳派コンビ。


 試験は30分後、シーサイドスタジアムにて行うと宣告し、黒岩は以後の判断を彼ら選手に委(ゆだ)ねる。彼らに考える猶予(ゆうよ)、30分という時間はそれを示唆していた。



 場面は先ほどの控え室に戻る。

 さくらはやはり辞めたい者は辞めても良いというつもりなのではないかと推察する。どう考えても失敗する可能性のない非論理的な試験なのだ(真名部談)。皆帆はその馬鹿げた試験を課した黒岩に逆に関心を持って褒め称えるが、それも彼の予測の範囲内だとひとりごちる。

 皆帆はともかく彼らの意見はまさしくその通りなのだ。それなのに辞めるということを誰も言い出さなくなると語っていた黒岩の態度は明らかにそれと矛盾する。それが不気味さを増し、今の彼らの葛藤(かっとう)につながっているというわけだ。あの悪い顔した黒岩が考えた試験だし、何か裏があると思うのも無理はない。

 心配性が自信のない言葉にまで出ている森村好葉(CV:悠木碧)は、監督が自身を含めた彼らに愛想を尽かしてしまったのではないかと言う。遠まわしに出て行けと言っているとの予測に激昂(げっこう)するのは井吹だった。

 
井吹「勝手に集めておいて勝手にお払い箱か!?」


 井吹もサッカーをしているのはあくまでもバスケのためという本分を持った存在なのだが、ここでは激しやすい彼の性向を表して納得いかない行為をしようとしている黒岩に対する怒りが突出する。

 その井吹を抑えて発言するのは天馬だった。監督には何か考えがあるのだろうと希望的観測気球を打ち上げる天馬くんだったが、その気球を即座に打ち落とすのは神童だった。



神童「いや、これはチームにとってむしろ良い機会だ」


 神童はメンバーの差し替えを求めて監督に直訴(じきそ)までした思考の持ち主だ。この試験によってやる気のないメンバーが抜けてくれるならむしろ願ったり叶ったりだろう。メンバーが欠ければさしもの黒岩といえどもメンバーの補充は避けて通れないだろうし、上手くいけば監督の責任問題として監督更迭(かんとくこうてつ)まで視野に入ることとなる。

 神童はサッカーが目的ではないメンバーはイナズマジャパンには必要ないと冷酷に告げ、遠慮なくこの場を去るよう提言する。それには神童に異常なほど憎悪の念を持つ井吹が怒りの表情を見せる。神童のこの挑発は井吹に対してだけは逆に彼をこのチームに引き留める役割を果たしそうな予感がする。


 突き放す神童に対し、反発とまではいかないまでも異論を抱いたのは井吹だけではなかった。


天馬「頑張って練習してしっかりサッカーと向き合ってくれれば、きっとみんなにもサッカーの良さが分かるはずです!」


 神童に意見した天馬だったが、その思いを無にするかのような発言が鉄角真(CV:泰勇気)から吐き出される。


鉄角「俺は試験を受けるぜ……」


 鉄角も自らの希望実現のためにイナズマジャパンに参加したクチだ。望みがすぐに叶う今回の試験は彼にとって夢のような提案だった。鉄角は神童に向き合い、言われた皮肉をすべて肯定した上でサッカーにもスポーツにも興味はないと胸を張る。

 「俺がいない方が嬉しいだろう?」と鉄角に開き直られ、神童は憮然(ぶぜん)としたまま視線を逸らす。それは鉄角がいなくなる方が望ましいと態度で示したも同然だった。


 そんな鉄角の望み、それは嵐で船を失った漁師の父のために漁船を買うというものであった。相変わらずなぜか事情通の皆帆がそう解説するのだが、それは父のためではなく自身を慰める行為であると驚きの裏事情をも皆帆は語る。

 天馬はせっかく代表に選ばれたサッカー選手を翻意(ほんい)させるべく説得を試みる。だが鉄角は神童、そして皆帆に続けて自分の信念を侮辱されたことが耐えられない。ただでさえ拳を痛めるという身体的事情でボクシングを続けられなくなり、スポーツに幻滅する鉄角だ。天馬の説得に耳を貸そうとはしなかった。

 落ち込む天馬にさらなる追い打ちがかかる。真名部も試験を受けると言い出したのだ。彼が何を望んだのかは不明だが、契約さえ履行されるのなら彼もこの場に留まる理由がないと考える点では鉄角と同意見だった。

 そしてそれに乗っかる皆帆。彼も手を挙げて試験を受けることを宣言する。こうなるとあとは雪崩(なだれ)現象だ。同じくサッカーに情熱を持っていない態度を見せる九坂隆二(CV:岡林史泰)があくび混じりに試験受講を告げる。

 そして驚くべきことに、彼らよりはサッカーに熱心な態度を見せていたさくらまでもが試験を受けると言い出した。さくらは天馬に対して申し訳なさそうな表情を見せるが、それでも彼女は新体操への情熱が上回ったらしい。さくらの決断に天馬は一層悲しげな表情を浮かべる。


井吹「俺は残る!」


 そんな雪崩現象を止めるのは、井吹だった。天馬はその言葉に救われた思いだった。井吹はサッカーや世界大会などどうでも良いが、自分を蔑(ないがし)ろにする監督らの運営態度、そして神童に対する対抗心が彼の思いを残留に振れさせたのだろう。神童を睨みつける井吹の視線を、神童は鉄角の時と同様に意図的に無視してみせる。やっぱり神童の挑発は井吹にはこういう効果を果たしたか……。

 まぁどんな動機であろうと残留宣言は嬉しいものだ(神童以外には)。そしてその流れは瞬木隼人(CV:石川界人)が引き継ぐ。


瞬木「俺も残るよ!」


 瞬木は弟たちのためにも自身が日本の代表として活躍することが好ましいと考えているようだ。金銭以外にも彼は自身を含めての社会に対する名誉回復を画策していると思われる(盗みを働いたという悪評を払拭するという意味において)。

 2名の残留者を得て心強さを感じた天馬は、好葉にも「残ってくれるよね?」と語りかける。無意識とはいえ気の弱い好葉ちゃんにこういう断りづらい攻撃を仕掛けるところはさすがはKYだと思わせる。


好葉「ウチは……ウチも試験受けます」

 弱気ながら彼女も試験を受けることを決意する。それにはエンディングで彼女とノリノリに共演する空野葵(CV:北原沙弥香)も残念そうにその名を呼ぶ。


 好葉は他のメンバーとは違い、自身が何の役にも立たない存在であることに心を痛めていた。天馬は井吹と瞬木が残留すると言ってくれた喜びが消え失せ、またもチーム存亡の危機という苦境に立たされることを実感していた。これで残留決定は天馬たち雷門中出身の3人と井吹、瞬木の5名。残る6名は脱退試験を受けるということになってしまった。試験の形態を考えると、試験を受ける=脱退決定というのはほぼ既定路線だ。



 その頃試験会場となるシーサイドスタジアムでは黒岩と、もう一人のマネージャーである水川みのり(CV:高垣彩陽)が言葉をかわしていた。マネージャーというより黒岩の私設秘書と呼んだ方がふさわしそうなほどチームより黒岩に付き従うみのりだが、その彼女をして黒岩の真意が読めないという。

 だが黒岩は説明しようとはせず、黙って見ているよう命じる。そして選手たちが準備を終え、この場にやって来たことを察知する。


 他のメンバーより先にフィールドへ続く扉を開いた神童は、そこで驚愕のものを目にする。



 スタジアムの控え室では天馬が残留を決めたメンバーと葵を前にして、キャプテンとして何をなすべきか悩んでいた。



 天馬は退団を決意する彼らを残留させるにはどうすれば良いのかを考える。この辺がドライな神童と決定的に違うところなのだが、ここが天馬の良さでもある。彼がキャプテンでなかったら、おそらく瞬木も試験を受けていただろう。井吹は逆に神童がキャプテンだったら余計残留の意思をハッキリさせたと思うが。


 中間派、やや神童よりの剣城京介(CV:大原崇)は放っておけと天馬の悩みを打ち消そうとする。彼らは契約の束縛を受け嫌々サッカーをしていたメンバーなのであり、むしろその中から2人も残留者が出たことに驚いていると剣城は述べる。

 瞬木もその意見に同意する。天馬がチームを考えて行動していることを認めつつ、瞬木は退団したがる彼らの気持ちも理解していた。


瞬木「(誰にでも他人に)踏み込まれたくないことだってあるんだ」


 なおも食い下がろうとする天馬に対し、瞬木は陰のある表情で静かな怒りを垣間見せる。サッカーを愛していれば良いだけの人間には窺い知れない彼らの深い事情に思いを馳せることが出来ない天馬に対する敵愾心(てきがいしん)が、そこには見て取れた。



「キャプテンには分からないかも……」


 天馬は瞬木の言い分が理解できなかったが、それを問われても瞬木は詳しく説明することを避け、取ってつけたような笑顔でごまかす。



 素直な天馬くんはごまかすことが出来ても、鋭い剣城の目をごまかすことは出来なかったらしい。フィフスセクターのシードだった頃、剣城は自身も兄の手術代を用立てるために望まない汚れ仕事に手を染めていた時期があった。だからこそ瞬木の言いたかったことが理解できたのだろうし、それを理解しない天馬に対して向けられた敵意にも敏感だったのだろう。



 同、ロッカールームでは脱退試験に臨む鉄角がその鍛え上げられた拳を握りしめていた。

 彼は知らず現在このような立場に置かれるに至った過去を想起していた……。いつものようにボクシングのロードワークに汗を流していた鉄角は、ひったくり犯が女性のバッグを奪おうとする場面に遭遇する。



 どうでもいいけど、イナズマ世界ではひったくり事件が頻繁に起こるよね。天馬とフィフスセクターの聖帝だったイシドシュウジ(CV:野島裕史)が出会った時もひったくり事件が起こってたし。ひったくり件数日本一の大阪が舞台か?


 それを防ぐため、鉄角は拳をふるう。だがその時逆上したひったくり犯が持っていた鉄パイプが……。この後の詳細は描かれてはいないが、ひったくり犯と格闘した時に鉄角は右拳を痛め、二度とボクシングが出来ない身体になってしまったと推察される。


 現実のロッカールーム。右の拳をさする鉄角に語りかけるのは皆帆だった。鉄角の挙動から無意識に右手をかばっていることを言い当てた皆帆に怒りを募らせ、一喝する鉄角。探られたくない腹は誰にでもあるのだが、皆帆と真名部はその辺に対する配慮が足りていないと思わせる。

 そこにやって来るのは天馬たちだった。



 さくらと好葉の女子はちゃんと隣のロッカールームから顔を出している。女子用のお着替え室がちゃんとあるという表現。ただ葵ちゃんは男子ロッカールームを覗いちゃダメやんね。


 天馬は退団試験に臨む一同に向け、最後にもう一度その意思を問いただす。「これで本当に良いのか?」「これで後悔はしないのか?」と。


 真名部は淡々と、サッカーは自分にとって何の意味もないとばかりに後悔しないことを告げ、その言葉通り悠々と試験会場であるフィールドに向かって歩き始める。九坂、皆帆も異議なしとばかりに無言でフィールドに向かっていく。遅れて鉄角も。

 天馬の思いが痛いほど分かる葵はせめて女子だけでもとの思いで、さくらと好葉に一緒にサッカーをやろうと声をかける。好葉は逃げるように駆け出し、やはりフィールドに向かってしまう。さくらも申し訳程度に愛想笑いを浮かべ、やはりその場に留まってはくれなかった……。

 全員が翻意することはなかった。肩を落として消沈する天馬にかける言葉が思いつかなかったのだろう、瞬木は「大変だね」とやや的外れな慰めの言葉をかける。



 フィールドへ続く廊下を、鉄角たちはこれでイナズマジャパンとは永遠に縁を切るための歩みを進めていた。さくらなど先ほど天馬や葵に見せた殊勝(しゅしょう)な態度などどこへやら「さっさと済ませちゃお〜っと♪」とご機嫌だ。

 フィールドへの入口を見て、皆帆が何か様子がおかしいことに気づく。だがイナズマジャパンから脱退するには向かわない訳にはいかない。鉄角はボタンを操作してフィールドへの入口の扉を開く。そこは数刻前、神童が開いた扉だった。



 外部の明るい光に視線を奪われていた彼らの目が慣れる。全天候型のスタジアムの屋根が開かれ、同時に沸き起こる大歓声! そう、シーサイドスタジアムの観客席はイナズマジャパンのファンたちで大入り満員状態だったのだ!!



 テレビカメラも複数設置され、マスメディアも多数が押しかけていた。その状態には小心な好葉ちゃんが思わず身じろぎしてしまう。これは一体……!?

 さくらや真名部も困惑顔だ。自分たちの退団試験にどうして観客がやって来ているのか、その理由がまったく理解できずにいた。天馬は一足先にピッチの人であった神童を認め、そちらに駆け寄る。この事態の説明を求めたのだ。

 観客も取材陣も、黒岩が用意したものだと神童は腕組みしたまま淡々と語る。イナズマジャパンの現状を紹介するという体(てい)で呼び集めた、いわばイナズマジャパンの公開練習を披露するという形だ。韓国戦での勝利がイナズマジャパンにより大きな期待感を抱かせたのだろう、満員の観客席と多数のマスコミの姿はそれを実証していた。


 そこに件(くだん)の黒岩がやって来る。イナズマジャパンのメンバーを呼びつける黒岩。みのりからマイクを受け取った黒岩は、満員の観客に向けて、選手たちの華麗なシュートを見てもらうとアピールする。



 それを聞いた鉄角を始めとする試験組は、黒岩の深謀遠慮(しんぼうえんりょ)にハメられたことに気づく! この大観衆を前にしてイージーなシュートを外せば大ブーイングを受けることは必定だし、それはプライドの高い彼らにとっては耐え難い苦痛でもあろう。好葉ちゃんはプライドは関係なさそうだけど気が小さいから、ブーイングされたらショックで死にそうだし。


 黒岩は彼らの姿を記憶し、ずっと覚えていて欲しいと観客に向けて語る。なぜなら……


黒岩「彼らは日本の誇りなのですから!」


 何とも上手い方法を考えついたものだ。これではシュートを外すことなど出来ようはずもない。あくまでも初心を貫いて試験に合格するように振る舞えば(つまりシュートを外せば)、その選手はサッカーファンに永遠にダメプレーヤーとして語り継がれてしまう!


 そんな黒岩の後ろ姿を、ベンチからじっと見つめるのはコーチの船木宏正(CV:金野潤)だった。彼は黒岩の正体を知りつつ、その彼がなそうとしているこれからの行動に目を光らせることを心に期していた。



 皆帆はこれが黒岩の策略だったことを理解する。真名部もすでに理解しているが、さくらはまだよく分かっていなかった様子。


 ここで被(こうむ)る汚名は、例えサッカーの世界を離れてもつきまとうこととなる。オリンピックを新体操で目指そうと画策するさくらにとってその汚名は致命傷と言える。つまりさくらはこのシュートを外すことは絶対に出来ない。

 さくらは今さらのように策士・黒岩の顔を見つめる。その表情はあくまでも無表情、無感情だった。


 心の準備がつかないまま、みのりが容赦なくシュートする選手の志願を求める。ややあって、鉄角が立候補する。彼は怪我によってボクシングの競技人生を諦めているのだから、ある意味ここで外したとしても失うものは何もない。

 彼は黒岩の思い通りにはならないと啖呵(たんか)を切り、ボールを手にゴール前に向かう。みのりが鉄角の名とポジションをアナウンスすると、場内は期待に満ちた大歓声が起こる。観客にとってはこれはシュートパフォーマンスであり、脱退試験などとは微塵も思ってはいない。


 鉄角はボールをセットして大きく深呼吸をする。真名部は99.9%の確率で鉄角が外してくれると期待する。誰か一人が外せばそのあとのミスはあまり目立たなくなるという心理が働いているのだろう。だが皆帆はその真名部流数学的確率論に異を唱える。


 鉄角の最初のシュートはゴールを大きく越え、外れてしまう。これ以上は無いほどの大外れだった。観客席はどよめき、天馬は大声で鉄角の名を呼ぶ。ここにおいても天馬は鉄角への説得を諦めてはいない。真名部たちは逆に鉄角のワザと失敗する行為を同調意識も働いてほくそ笑む。

 シュートは5本の約束だ。これをすべて外さなければ合格とは言えない。鉄角は心を努めてクールに維持し、笑われても試験に合格することを誓う。彼の居場所はここではなく、海なのだという信念。それがこの緊迫した場面であっても彼を後押しする。


 そして放たれた2本目のシュートもゴールを外す。さすがに2本続けて、キーパーもいないゴールに外すという状態はおかしいと観客の動揺が大きくなる。それは確かな信念を持っていた鉄角ですら抗(あらが)うことが難しい雰囲気を醸成(じょうせい)する。

 この雰囲気の中、あと3回も外し続けなければならない。このプレッシャーに耐えることはどんな意思の持ち主であっても難しいだろう。3回目のシュートを前に、鉄角は初めて振り向いて黒岩を見る。そして観客の目は気にしないと言って3度目のシュートも外す。



 観客の声がだんだん荒くなってくる。後ろで見ているさくらは、自分もこれと同じことをしなければならないと思うと胸の動揺が抑えきれない。心境的に歯医者の順番待ちをしているのに近いかも。いつもは飄々(ひょうひょう)とした態度の皆帆にも冷や汗が浮かぶ。


 続けて4本目も外す鉄角。彼の精神はその名の通り、鉄製なのかもしれない。後ろで見ているコーチの船木はこういう恥とも思える練習を公開することに大いに不満であることを貧乏ゆすりで体現させていた(この態度から船木はこれが退団試験であることには気づいていない模様)。

 鉄角が外し続ける中、剣城はそのキック力を褒める。DFでありながら、鉄角にはストライカーの素質もあるらしい。だが場面は運命の5本目だ。これを外せば素質があろうが無かろうが、彼のストライカーとしての未来も永久に消える。


 だがボールをセットした鉄角の耳に、観客からの野次が届く。ハッとなった鉄角が改めて観客席を見渡し、そこにしらけた表情の観客の姿を見てしまう。気にしないと言っていた観客を意識せざるを得ない過去が、鉄角にはあった。



 過去のボクシングの大会でノックダウンを喫した彼が見たもの、それは観客たちの冷淡な態度であった。セコンドに立つトレーナー以外はすべてが敵に見えた鉄角はクリンチで敵にしがみついて戦いを事実上放棄する。彼はかつてボクシングの試合でも逃げ出してしまっていたのだ。観客の視線からその時の屈辱を思い出した彼は、今またサッカーから逃げることを考えているという現実と向き合う。


 このシュートを外せば、今すぐ漁船を買い、父とともに大海原で漁師として生きていくことが出来る。鉄角はまた昔の思い出を振り返っていた。



 ボクシングの試合で逃げてしまったことを後悔する鉄角を厳しく、そして優しく諭(さと)すトレーナーの徹(CV:間宮康弘)さん。鉄角にとって「男だったら逃げずに立ち向かえ!」という徹さんの教えは無視できるものではなかった。ここで徹さんが鉄角の父の弟、つまり叔父であることも明かされる。


 鉄角の脳内で徹さんからの教えが反芻(はんすう)される。そこにダメ押しのように、観客席からの少年少女の声援が背中を押す。韓国戦で彼のファンになった子供たちの無垢(むく)な思いは、利権がらみでドロドロの自身の事情に対する強力なアンチテーゼたり得た。

 韓国戦、瞬木からのパスを受けて活躍した自分の姿を思い返し、彼はそこで確かに輝いていた自分を想起する。自分の居場所、それは今目指しているつもりの海ではなく、実はもうすでに見つけていたのではないか!?


鉄角「確かにあの時は気持ちよかったな……」


 鉄角はもう一度後ろを振り返る。そこには様々な思いで彼のラストシュートを見届ける面々がいた。鉄角は天馬を見つめ、ロッカールームで天馬からかけられた「本当にこれで良いの?」という言葉を思い出す。

 決然とボールに向かった鉄角の最後のシュート! その軌道を見届けた天馬と剣城の表情が喜色に染まる。そのシュートは豪快にゴールネットを揺さぶった。つまり、ゴールだ!!


 決断のシュートを放った鉄角は、サバサバした笑顔を浮かべ、心の中で今ここで漁船をプレゼントしてやれなかった父に詫びていた。



鉄角「一緒に漁に出るのは、もう少し待ってくれ」



 鉄角の造反に悲喜交々(ひきこもごも)のメンバーたち。天馬たちは大喜びで、葵は一瞬仕事のホイッスルを忘れてしまうほど。一方、退団試験組は驚きと戸惑い、落胆を隠しきれない。見切れてるけど黒岩監督もしてやったりの天馬くん風の笑顔を浮かべていたら笑える。


 剣城はストライカーらしく、鉄角のシュートを良いシュートと評して笑みを見せるが、彼も鉄角の翻意自体が嬉しかったに違いない。観客席ではシュートをようやく決めた鉄角に対し、ちびっこファンが歓声を上げていた。


 戻ってくる鉄角に対し、さくらたちは考えを変えてしまった彼の行為について聞かずにはいられない。プレッシャーに負けたのかという皆帆の質問に、鉄角はイタズラめかしたような表情で、それを肯定的に流す。本当はそうではないということを言外に語っているかのような表情だった。



 ロッカールームで険悪な雰囲気だった鉄角と皆帆の会話だが、吹っ切れた鉄角の態度にそれも消え失せた感がある。このシーンの鉄角の態度は男前だ。


黒岩「これが見守る者の力……」


 鉄角の行為に満足気な態度の黒岩は、それを見ながら謎の言葉を吐く。みのりは黙ってそれを聞いていたが、機械的に次のキッカーの立候補を求める。

 次に立候補したのは、不良番長の九坂だった。鼻つまみ者として有名な彼は考えてみれば鉄角以上に失うものがない立場であり、試験合格に関しては最右翼の存在と言ってよかった。

 そんな九坂にもちびっこたちから声援が送られる。九坂は喧嘩流シュートと銘打ったシュートを放つ。そのシュートは1発でゴールに突き刺さる! なんと、九坂は迷うことなくゴールを決め、同時に退団試験不合格をも決定づけてしまう!



皆帆「君もですか?」
九坂「お前らもあそこに立てば分かる」


 不良で鳴らす九坂といえども子供たちの大歓声の前には、カッコ悪いところは見せられなかったのだ。それを見ていた真名部はメガネのズレを直しつつ、次のキッカーとして前に向かう。それを見送りながら九坂は監督の思い通りに動かされた状況をムカつくと、言葉とは裏腹の笑顔で語る。


 3番目の選手として観客の視線を一身に浴びることとなった真名部はセットしたボールを見つめ、沈思黙考する。

 そして後ろを向き、踵(かかと)でボールを軽く小突く。それはどう見てもシュートには見えなかったが、転がったボールはゴールラインを割り、シュートは成立する。



 シュート自体はボテボテのダサダサだったのに、なぜか自信満々にメガネを光らせてカッコ良いシュートを演出する真名部くん。熟考した末に彼が導き出した解は、シュートを成功させ試験には不合格となることだった。その蹴り方に監督の思い通りにはならないという彼なりのひねた矜持(きょうじ)が見受けられる気はするが。


 形はどうあれ、残留を自らの意思で決めたのだ。天馬は素直に喜ぶが、葵はそのひねくれたシュートにやや苦笑い。


 そして次のキッカーは皆帆だった。彼は常に顎に手を当てて何かを考え続け、軽く飛び跳ねたあと、勢いよくボールを蹴る。そのシュートはごく普通に決まってしまう。真名部と比較して皆帆の考えがどのように変遷(へんせん)したのかは分かりづらいものだった。



 その次はさくらの番だった。他のメンバーと比しても失うものの大きい彼女はこうなっては選択の余地もない。苦笑しながらボールを巻き上げ、新体操仕込みの動作でたっぷりとサービスしながらゴールを決める。シュートしたあとも床運動の要領でトンボを切って最後はポーズという、事前のやる気のなさとはまったく違う態度で締める。



 大声援を受けて笑顔がこぼれるさくらちゃん。新体操の演技終了と同じような笑顔でのアピールだ。目立ちたい精神が旺盛な彼女にとってはこれもまた自然な態度といえよう。


 ……と思わせておいて



「やってられないわ(ボソッ)」


 どうやら納得がいってないこっちの顔が本音らしい。


 この翻意の嵐、その先鞭(せんべん)をつけてくれた鉄角のゴールに対し、天馬は改めてお礼を言う。だが鉄角自身はそんなつもりはまったく無く、それは天馬の買いかぶりであった。照れた鉄角は「そんなんじゃねぇ!」とツンデレにしか見えない態度で否定しつつ、天馬に背を向けながらボクシングで漁船を買ってやるという夢を叶えられなくなった今、サッカーでそれを果たそうとしていると言い訳めいた口調で一気に語る。

 天馬の態度に師匠である徹さんの言葉が重なってしまったことが鉄角にとってはある意味致命傷だったのだろう。天馬にノックアウトされてしまったことを告げる鉄角を、天馬は笑顔で見つめる。


 その間に6番目のキッカーがゴール前に向かう。6番目は未だ謎多き少女、好葉であった。大観衆を前にして気の小さい彼女は消え入りそな儚(はかな)さだ。だが意を決してボールを定位置にセットする。

 右を見ても左を見ても、好葉のシュートの成功を見守る人々の目を意識しない訳にはいかない状況だ。そのあまりの緊張感に耐えられなくなった好葉は目を回してしまう。ふらつきながら差し出した足の踵(かかと)にボールがかかり、大きくスピンしながらボールは舞い上がる。

 そのボールはゴールの枠をやや外した形でグラウンドに落ちる。しばらくスピンしたそのボールは、回転の挙動からゴールポストを巻くように転がり、枠内に滑り込んでしまった!



 完全にミスキックと思われたその偶然のシュートは、ものすごい必殺技に昇華しそうな可能性を見せつけてゴール成功という結果を残した。好葉ちゃんの気持ちを思うと本人は外したかったのかもしれないが……。それ以前に蹴ったつもりも無かっただろうが……。

 だが観客にはそんな事情など分かろうはずもない。好葉はこれで一躍すごくトリッキーなシュートを持った選手という認識で見られることになるだろう。

 葵はシュートを決めて同時に残留を決めた好葉を手放しで迎えるが、好葉は涙を浮かべてこの運命のイタズラによる結果を嘆(なげ)いていた。



「入っちゃった……」



 グラウンド後方では、この結果に満足な人物と不満な人物とが睨み合っていた。かたや監督であり今回の仕掛け人でもある黒岩。こなたこれでサッカーの素人がチームを去ってくれるという思惑が外れてしまった神童。

 黒岩は、これが応援する言葉の力だと語る。鉄角がゴールを決めた時に語った「見守る者の力」とは、つまりサポーターの応援の力のことを意味していたのだ。さらにそれを支持する仲間の力。ここでは天馬と葵の献身を指す。

 神童は黒岩を忌々しく思いつつも、その語る言葉に一切の異論を差し挟める余地のないことも感じていた。悔しいが認めざるを得ないというやつだ。


 舞台を演出した黒岩はマイクを握り、観客に向けて新生イナズマジャパンのアピールに余念がない。観客の思いを味方に付けた黒岩に逆らうことなど出来はしないのだ。

 だがその言葉には揺るぎのない真実も多分に含意(がんい)されている。サポーターの応援が頑なだった鉄角たちボイコット組の心を融(と)かしたことも事実なのだ。完全にサッカーに前向きになった選手はまだ少ないが、今日のサポーターたちの心のこもった声援を、彼らイナズマジャパンのメンバーは忘れることは出来ないはずだ。



 今回やたらスリーショットが目立った彼らも、「まだ心を開ききっていないトリオ」だ。だがそんな彼らでももう少し続けてみようと思わせるモノをこのスタジアムで得た模様。彼らがデレる日もそう遠くはないだろう。




そして舞台は暗転ならぬ、反転する。緑濃きグラウンドを引きずられたタイヤが通り過ぎる中、逆さまの葵が真名部と皆帆に向かって厳しい口調でダメ出しする。




 世界が逆さの謎はすぐに解けた。タイヤ引きの特訓について行けなくなってダウンする皆帆の目線で葵を見ていたからだ。この2人、やっぱりまだまだ体力面では苦労しそう。両者ともシュート決めたことを後悔してたりしてね。


 その間も九坂や瞬木がタイヤを引きずってグラウンドを駆けていく中、真名部はこの練習が自分に向いていないと泣き言を言う。だが脱退試験をクリアできなかった際の約束を盾に、葵は容赦がない。



 すでにノルマを果たした選手たちは休息しているようだけど、瞬木や剣城ですらバテている訳でかなりハードな特訓のようだ。後方で頑張ってる好葉ちゃんをどうしても応援してしまう。この手の特訓は体力とは別に体重の大きい方が絶対有利だし、好葉と九坂は同じ大きさのタイヤ引かせちゃダメでしょ。


 バテてタイヤに座り込んださくらは、こんなにハードならやっぱり辞めておけばよかったと、今さらどうしようもない愚痴をつぶやく。新体操選手として復帰するとき、ものすごいガチムチな肉体になっていたらマズそうだしね。

 その様子を見ていた天馬にドリンクを差し出すのは、6人中最初にデレた鉄角だった。彼は天馬をキャプテンと呼び、仲間として認めたことを態度で示す。



鉄角「頑張ろうぜ、キャプテン」


 ここにサッカー馬鹿(褒め言葉)を増産したという事実に素直に喜ぶ天馬。一人を翻意させることが出来たのだ。残りのメンバーも本当の意味でサッカー好きなサッカー馬鹿にすることも夢ではないはず。



 そんな友情シーンも、マネージャー魂に燃える葵にはサボっているとしか映らないのかもしれない。次のメニューを発表する葵の指示には、真名部はおろか天馬まで嫌な顔をする(笑)。


 真名部は30分の休息が必要だとインテリっぽく反論するが、それはさすがに休み過ぎと鉄角から突っ込まれる始末。練習はとてつもなく厳しいが、こんな軽口が出る辺り、選手たち個々の仲はだんだんと良くなっていっているような印象を受ける。チームとして団結する日も、もしかしたらそう遠くはないのかもしれない。




 サボリに厳しい葵の怒声が飛び交うグラウンドでは、近い将来、世界を席巻(せっけん)するであろうチームがようやく本格的に始動しようとしていた。



 次回に続く。



  エンディング

 

 何だかんだあったが、ようやくメンバー全員が揃っての本格的な練習が始まった。鉄角が吹っ切れてサッカーに打ち込む意思を固めたのが今回の朗報。脱退の意思を見せなかった瞬木や井吹よりも鉄角の方がチームに対する忠誠心はきっと高いだろう。それほどまでの完璧なデレっぷりだった。

 次点は九坂であろうか? ただまだ描写が少ないので、彼のサッカー熱への覚醒はまだ何かきっかけが必要かもしれない。さくらのやる気スイッチはやや後退した感じ。真名部と皆帆は練習がきつくてしばらくダメそう(笑)。彼らが基礎練習に耐えられるだけの体力を付ければ変わっていく可能性は大だ。

 問題は好葉ちゃんかなぁ。彼女は偶然とは言え今回のシュートでポテンシャルの高さを感じさせた訳で、自分に自信を持てれば変わっていくと思われる。ただ順番的に彼女の覚醒は最後になりそうな気がする。


 次はまたまた試合パート。次はアジア最強の敵、オーストラリア代表【ビッグウェイブス】が相手だ。リアルでも日本代表がワールドカップブラジル大会アジア予選でオーストラリアと引き分けたことで本大会進出を決めたのは記憶に新しい。今回はギャグ役に徹していたさくらにシリアスな展開が訪れるらしい。



 このオーストラリアのキャプテン、やたらとカッコ良いんですけど。このカッコ良い彼もイナズマジャパンに負けたら韓国代表のように溶けてしまうのだろうか?



  次回「チームの中の敵!」に続く。



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