将棋漫画のゲーム化作品、『月下の棋士 〜王竜戦〜』の感想

 爽やかな朝、毎日新聞の「アサッテ君」を読んではそのつまらなさにストレスを溜める毎日なのは昨日のエントリーで触れた。我が家は毎日新聞を購読している。その理由に言及していた【ゲームクエスト】宛のゲーム感想文があったので、事のついでに紹介したい。


 今回の『月下の棋士 〜王竜戦〜』は将棋漫画「月下の棋士」がゲーム化されたもの。感想文中で触れているが、将棋のゲームと思ってプレイすると、そのあまりの弱さに愕然となる出来で、決して良い将棋ゲームとは言えないのだが、能條純一の描く独特の雰囲気を持ったキャラゲーとしては、合格点を与えても良いかなと思える出来であった。とにかく声優さんが良い演技をしていたのだ。

 この回(投稿3作目)から被っていた猫を脱ぎ捨てて、少しふざけた文体で投稿する事にしたのだが、以前述べた「【ゲームクエスト】担当編集さんが担当日記でコメントをくれなかった回」の当方最初の経験であったので、慣れていない当方は「ひょっとして問題でもあって没にされたのかな? 最後のおべんちゃらがまずかったのかな?」と心配した感想文であった。無事掲載されてはいたが、【ゲームクエスト】トップページで紹介されなかったので、観てもらえた人は殆ど居なかったであろうと思われる。


 では今回も当方の感想文から、どうぞ。なお、実在棋士の段位、称号は掲載時、2008年当時のもの。


甘茶
対戦相手が弱い! でもキャラゲーとしては成功(2008.07.17)
 唐突だが、ウチは毎日新聞を購読している。毎日新聞コンテンツの【ゲームクエスト】さんに対するおべんちゃらではない。理念や信条に共鳴している訳でもなく、アサッテ君を読みたいという訳でもない。将棋の名人戦、及びA級順位戦棋譜が掲載されているからである。当方小学生の頃はプロを夢見て、関西将棋会館通天閣の足下での将棋大会に出かけたものだ(当方は大阪在住)。まぁ、海千山千の猛者の前に夢は無惨に打ち砕かれたのだが、将棋への愛は今も残っているという訳だ。
 
 それだけに、昨今の名人戦の主催争奪の醜聞には辟易した。この件に関しては、どう見ても毎日新聞の側に理があり、30数年前に名人戦を投げ出したくせに今更横やりを入れて来た朝日新聞と、商魂逞しく立ち回られた日本将棋連盟のトップのお方には、一言どころか一万言ぐらい言って差し上げたい事があるのだが、ゲーム感想の主旨と外れるので割愛する。
 
 このゲームは、能條純一作画の将棋劇画『月下の棋士』を原作にした言わば「将棋のキャラゲー」だ。将棋ファンで能條ファンの当方はもちろん全巻読んでいるが、当時プレステでゲームが出ていると知った折、喜んだと同時に少し不安になった。この漫画の登場人物は全員「キ○○イ」だから……。『月下』に限らず『哭きの竜』にしたって、能條漫画の登場人物はみんなどこかが壊れている。それ故に命懸けの壮絶な闘いが一層の迫力を持って読み手の眼前で昇華するのだが、それは飽くまでも漫画でのお話。こんなアクの強いキャラゲーがまともなゲームになるのかという不安が拭えなかったのだ。
 
 さて、プレイしてみての感想。オープニング後、早速対局となるのだが、最初の相手は原作で主人公、氷室将介(声優は「勇者王ガオガイガー」の獅子王凱役と、運慶作の仏像にくりそつな事で有名な檜山修之)に憎まれ口を叩きながらあっさり敗れ、引き立て役になった関崎勉(モデルは先崎学八段。「キ○○イ」な登場人物達にも実在のモデルがいるのだ。超エキセントリックに描かれても許容した棋士達の度量の広さに乾杯)。

 「言っとくけど、ボク、強いんだよォ」と、原作通りの憎まれ口の関崎。北斗の拳」でのザコキャラ担当だった、千葉繁ボイスがこれ程似合うキャラも珍しい。こちらの指し手に脊髄反射の如くポンポンと応手してくる関崎。実にテンポがいい……って、ちゃんと考えていないのだろうか、あっさり勝ててしまう。まぁ最初の敵だから、チュートリアルのようなものか、と自らを納得させて次の対戦へ。

 ところが、次の敵の村森聖(モデルは故・村山聖九段。声優は梁田清之)以降も一向に手応えがないのはどういう事か。紅一点の大和岬(名前は高橋和元女流、性格は林葉直子元女流がモデル)も簡単に撃破。駄目だ駄目だ、これじゃ駄目だ。お色気満点の三石琴乃ボイスは原作のイメージ通りでとても、とても良かったのだが……。

 とにかく対戦相手が弱い、弱っちいのだ。将棋ゲームとしても許せない弱さだが、原作で氷室と死闘を繰り広げた「奴ら」がこれでは、原作漫画ファンとしても許せない気がしてくる。これが当時のコンピューター将棋の限界だったのだろうか。ラスボスに当たる氷室の宿敵、滝川幸次(モデルは谷川浩司九段。声優は飛田展男)戦も、滝川の超長考を我慢できる忍耐力さえあれば、エンディングを見るのはそう難しい事ではないだろう。
 
 率直に言って、キャラゲーとしては成功していると思った。プレイしていく内、当初抱いていた不安は払拭されていた。グラフィックは能條絵の取り込みに過ぎないが、声優の声の演技が非常に上手く、原作の雰囲気を醸し出していた。二言三言しか喋らないのが残念であった。

 現代はコンピューターの棋力も上がっていると聞く。原作も終了して久しい故、実現の見込みはほぼ無いであろうが、原作後編をモチーフに『月下の棋士 〜A級順位戦〜』なんてリメイクを作って頂けないものだろうか。もう一方の氷室のライバル、佐伯宗光(モデルは佐藤康光棋聖。声はきっと石田彰と想像)など、闘ってみたいキャラはまだまだこの漫画にはいるのだ。それとも、やはり今時の将棋漫画原作ゲームと言えば『しおんの王DS』になるのだろうか。毎日コミュニケーションズよりニンテンドーDS版好評発売中らしいしね(今度は毎日グループに対するおべんちゃら)


 毎日新聞購読の理由として、将棋の名人戦が掲載されている事もその理由なのだが、一番の理由は景品が魅力だったから、とは書けなかった。けなしこそしていないが、アサッテ君のせいでは無いと素直に書いている。

 プロ棋士を目指したというのは、半分事実かな。友達グループが当方以上に将棋にハマっていて、当方より先に段位を取りに行った友人も居たりした。その段位が2段だったんだけど、当方と10回指して10回ともこちらが勝ったので、少なくとも当方も2段の実力はあったと思われる。それで気持ちだけは「プロになれるかなぁ?」と漠然と思って……。所詮アマ2段なんて、たかが知れているという事に気付いたのが将棋大会でコテンパンにされた時。すぐに目が覚めて、今では良かったと思う。

 当時名人戦の主催を巡って、朝日と毎日が激しく争っていた経緯があり、結局共催で落ちついたのであるが、毎日の怒りは紙面から伝わって来ていた。冒頭の意見は投稿先の【ゲームクエスト】が毎日新聞のサイトの一部だったから迎合した訳では無いが、その気持ちを慮(おもんぱか)ったところもある。文中腐した「日本将棋連盟のトップのお方」とは現在も日本将棋連盟会長を務めておられる米長邦雄氏の事。さすがに実名では書けなかった。……ほぼ書いてるんだけどね。


 あと分かり難いネタの解説。声優の石田彰は「新世紀エヴァンゲリオン」の渚カヲル役、「機動戦士ガンダムSEED DESTINY」のアスラン・ザラ役などを歴任し、主人公キャラ(♂)とホモっぽい関係の役どころをやらせたら右に出るもの無しの声優さんで、その甘苦しい声で世の腐女子の腰を抜かす事が特技。「月下」で主人公氷室に同性愛的な恋情を抱くライバルの佐伯宗光にピッタリと思える声優さんである。というか、原作は読んでて石田彰の声しかしねぇ。ぜひアニメかゲームで見てみたいなぁ。

 最後はオチとしてウマい事落としたと思っていたのだが、これが気に入られずに編集日記のコメントを拒否されたかも知れず。現在の将棋漫画原作なら、『ハチワンダイバーDS』とでも言うべきか。毎日コミュニケーションズ発売作では無いので、毎日グループに対するおべんちゃらには全くならないが。


 ちなみに「しおんの王」の原作担当の「かとりまさる」は、大和岬のモデルとして感想文中触れた、元女流棋士林葉直子ペンネーム。初めて知った時は少なからず驚いた。不倫スキャンダルによる将棋界からの引退、ヘアヌード出版、占い師などを経て自己破産した時は心配したが、才能が身を助けたようだ。ただ、やはりこの人も、将棋という魔力からは生涯離れられない運命なのだろう。



 ゲームのオープニングが収められた動画。後半はパチンコ「CR月下の棋士 奇蹟の月」の画像になっている。ゲームの部分が少ないのは残念だけど、原作の雰囲気が出ているパチンコの動画もなかなか面白いので紹介する。登場人物の雰囲気を観るだけで、実際にパチンコ打ちに行かないで下さいね。

 朝鮮総連、果ては北朝鮮の財源に日本の漫画が使われる現状は許し難いんだけどね。そんな中、パチンコ業界に10億円積まれても「ドラゴンボール」の版権使用を許諾しない鳥山明は偉い。


 蛇足ではあるが上記感想文中で紹介しなかった登場人物のモデル、及び声優を動画登場順に列挙しておく(段位は2010年12月現在)。大原巌のモデルは故・大山康晴15世名人(声優は「巨人の星」の星一徹役の加藤精三)。刈田升三のモデルは故・升田幸三実力制第四代名人(声優は関崎と二役の千葉繁)。アマ棋士の鈴本永吉のモデルは鈴木英春アマ(声優は茶風林)。モテ男の二枚目、幸田真澄のモデルは郷田真隆九段(声優は子安武人)。武者小路和清のモデルは外貌では無く、データ重視の棋風から武者野勝巳七段か? 変人揃いの本作中でも特にエキセントリック過ぎるキャラなので、モデルは居ないのかも知れない(声優は山野井仁)。氷室の祖父、御神三吉のモデルは故・村田英雄の歌曲「王将」で有名な故・阪田三吉(声優は塚田正昭)。



 [余談]
 原作最後のシーンで「氷室名人」に挑戦する大原鉄太は渡辺明竜王がモデルっぽい。現役最強の羽生善治名人をモデルにした棋士だけは、何故か最後まで登場しなかった。性格など全て似ていないが、最強の将棋指しという一点のみで、主人公、氷室将介がモデルという事なのだろう。


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