クマの異常出没。野生との共生……『アストロノーカ』の感想

 【ゲームクエスト】関連の文章は、もう少し状況がこなれてから書こうと思う。他の投稿者の皆さんのうち幾人かも、ブログやホームページを開設されている人もいるのだろうと思うが……。残念ながら発見できていない。どうも当方の検索能力はダメダメらしい。


 世間ではクマの出没が相次いでいるらしい。しかも例年に無い頭数、そして継続性である。毎日のようにクマのニュースを聞くと、野生生物と人間との共存という麗しきテーマも困難なものに思われてきてならない(続報追記中)。


 時事と関連付けるに当たり、今回は強引ではあるが(前回もか?)、野生生物バブーから罠を駆使して収穫物を守りつつ、農作業に勤しむやり込み系ゲーム『アストロノーカ』の感想文。有り難い事に本作は【ゲームクエスト】2008年11月の月間賞を戴いた投稿作であるが、実はこの作品は友人宅のPCで、3時間ほどで書き上げたものだった。この一つ前に送った『グランド・セフト・オート バイスシティ』の感想文が長文すぎたので、息抜き的なつもりの投稿だったのだ。4〜5日かけて推敲しまくった自信作が、箸にも棒にもかからず終いだった事もある訳で、月間賞の選考基準は未だに良く分からない。本作ももっと練り込んで面白く出来たと思える半面、蛇足が無かったのが良かったのかも知れないとも思えるし……まぁとにかく、今読み返してみても嬉しい半面、些か複雑な心境になる作品である。


甘茶さん の「アストロノーカ」 (プレイステーション)
変化球タイプの佳作

 甘茶さんは「アストロノーカ」の感想。確かに知る人ぞ知るカルトゲームですねえ。ダメ野菜コンクールもあるというのがいいところ。このころのエニックスはこういった実験的なゲームも出していましたね。

甘茶
変化球タイプの佳作(2008.11.06)

 『ドラクエ』が代表作のエニックス(現スクウェア・エニックス)が、「こんな遊び方のゲームもあるよ」と言わんばかりに世に送り出した、奇抜な印象を与える本作。当方は本作を、パソゲーの昔から意欲的に変化球タイプのゲームを提供して来たエニックス社の面目躍如たる意欲作だと評価している。残念ながら本作は売り上げ面で芳しい出来では無く、それでいて中古ゲームショップではその品薄感もあって高値で取り引きされるという、所謂「知る人ぞ知る」タイプのカルトゲーとして、ヤフオク等でひっそりとその徒花(あだばな)を咲かせている。

 「知る人」には、今でも名作の誉れ高い作品だという事は、ゲームクエスト本欄での高い評価を一読すると明らかであると思う。プレイヤーは遥か未来の田舎の惑星の農夫(『アストロノーカ』なるネーミングは秀逸)となって、様々な野菜を種から育てて栽培、出荷して金銭を稼ぎ、更に新しい野菜の種を購入したり土地を開拓したり、種と種を交配して新種の野菜を作り出したりしていく。やり込み好きなゲーマーなら聞いただけでニンマリしてしまうシステムだろう。究極的には、大都会でのコンクールにて自作の野菜で見事優勝するのがゲームの目的なのだが、その長い道のりへの過程がいちいち面白く、徹夜でのめり込んでしまう程にゲーム性に魅力がある。

 田舎の小さいコンクールで優勝したり、今まで見た事の無い新種の野菜が誕生した時に感じられる喜びは、普段のプレイヤーの地道な交配作業の成果として、大いにカタルシスを感じさせて飽きさせない。ゲーム序盤に感じる面白さは今でも全ゲーム中屈指のものであると断言出来る。

 中でも秀逸なのが、初心者プレイヤーに、ゲーム進行の術(すべ)を伝えるヒントも兼ねたシステム【アストロネット】である。当初は初心者農家のプレイヤーに「作物は出入りの商人さんに売れば良いですよ。同時に種も買いましょう」とか「こういう風にすれば、害獣バブー(後述)から畑の作物を守れますよ」といった風に、次に何をすれば良いかの指針を、我々に馴染み深い「メール」という形で与えてくれる便利なツールなのだが、プレイヤーがゲーム展開に慣れて来る頃に、この世界の実存が自分だけで無く、他にも様々な住人がいると思わせる演出を施すツールになって行く。例えば村のコンクールで優勝すると、「貴方のファンです」という女性からのメッセージが届いたり、「思い上がるな!」「次は負けないぞ!」といった、コンクールでのライバル達からのメールが届いたりするのだ。これがもう嬉しくて楽しくて面白くて、素晴らしいアイデアに感心しきりだった。余談だが、メールでしきりに挑発して来るライバルでも無さそうな謎の人物の正体に気付いた時もニヤリとさせられた。挑発は、あの人なりの思いやりだったのね、って。

 中終盤の長い期間、【アストロネット】を始め、序盤やたらと喧(かまびす)しかった周囲が静まり返ってしまうのは、序盤が楽しかった分とても寂しく、残念に感じられた。思いの通りの交配を行うのは、禅の修行をしているかの如くの苦行なので、やはり息抜きやカタルシス的なものがあった方が良かったのではないだろうか。容量的に難しかったのだとしても、むしろここを優先させて欲しかったという思いは強い。数少ない本作のマイナス点だ。

 プレイヤーが作る野菜には、それぞれ「重さ」「大きさ」「香り」「模様」等、他にも多数の特徴があり、それらが「重い」「大きい」「良い匂い」「綺麗な模様」といった良条件な程、売却時やコンクール時には高く評価されるので、頑張って品種改良に励む事になるのだが、そんなに単純な内容だけでは終わらないのが本作の奥深いところ。「軽い」「小さい」「悪臭」「変な模様」といった悪条件であっても、それが度を越して基準より悪い状態なら、むしろ高額で売れたりするし、そういったダメ野菜のみ取り扱うコンクールもあるのが楽しい。苦労して品種「改悪」にも励む事になるのだ。これはこのタイプのゲームとしては、エポックメーキングな事だと思う。逆の発想を突き詰めて行くという、思わぬ楽しみを感じられた。「よーし、中国も真っ青な毒々しい野菜を頑張って作るぞ〜」なんて意味合いのセリフ、本作でしか吐かないもんな〜。


 熱心に野菜作りに励んでいると、突如現れる邪魔者がいる。日常時に於けるライバルと言える存在、バブーである。バブーは見た目の間抜けさとは裏腹に、貪欲に、一心不乱に畑の作物を食い荒らそうとやって来る。勿論こちらも丹精込めて作った大事な野菜を黙って食われる訳にはいかないので、商人から購入したトラップを駆使して、バブーを撃退しに掛かる。最初はあっさり撃退出来るのだが、恐ろしい事に奴らはトラップに耐性を付け始めるのだ。ジャンプ台でバブーを吹っ飛ばし、畑前の小川に放り込むのが当方のお気に入りの撃退法だったのだが、そうしたトラップを使っているとバブーはどんどん重くなり、やがてジャンプ台をその重みで踏みつぶしてしまった。歯噛みする当方を余所に、ガアガア鳴きながら高価な野菜を貪り食うバブー。「お前の顔は覚えたぞ!」とばかりに新たなトラップに思いを馳せる当方。「重くなっているのだから、落とし穴に落としてしまえば…。フッフッフッ」と残忍な笑顔を浮かべながら落とし穴を設置して、想定通りバブーが落ちてもがき苦しむ様を見て高笑いする当方。ただ笑いながらも、「もし落とし穴に耐性が付いて来たら、どうしよう……」と背筋に冷たいものが走るのであった(この悪寒は、羽が生えるというムチャな進化を遂げたバブーによって的中してしまう)。

 望遠鏡から本日やって来るバブーを見て調べる事が出来るのだが、来る奴来る奴、「羽が生えててメガトン級の重さで、メチャクチャ力強いバブー」という、この農場を放棄して裸足で逃げ出したくなる程ウンザリする様な奴ばかり。……こうなったら仕方が無い。スナイパーライフルで射殺する、といった行為を認めてくれないこの世界では、いつかはバブーとの共存を考えざるを得ない訳だ。比較的バブーが訪れやすい第一、第二農場は安いイモやカブなんかを栽培して、そこでバブー様に満腹して頂いて、あわよくば被害を最小限にバブー様にお帰り頂く事が対処法となる。「(安いイモを食べに)いらっしゃいませ、バブー様」「(安いイモだけ食ってくれて)ありがとうございました、バブー様」ってくらい卑屈な料理店的プレイングってどうなの?

 ちなみに毒野菜を食わせても、奴らは平気だ(気分的には楽しいが)。……どこかでスナイパーライフルを入手出来る隠しコマンドはないものか。


 冒頭述べたが、本作はエニックスが売れるかどうか分からない中、冒険して頒布してくれた変化球タイプの佳作だ。最近はゲームハードの性能向上に伴い、ソフト開発にも大金が掛かる状況になって来ているであろうから理解出来るのだが、本作の様な冒険心溢れる作品は、開発費の廉価な携帯ハードでしか散見出来ないのが現状だ。時代の趨勢かと残念に思えるのだが、『ドラクエ』というドル箱作品を抱えるかつてのエニックスの様に、パトロンになれる余力のあるゲーム会社に、ゲーム文化の発展及び継承を期待したい。



 バブーの姿。



 当方、投稿作にある程度連作性を持たせていたので、この作中にも前作『GTA バイスシティ』の影響が出ている(バブーを「スナイパーライフルで射殺」の下り辺り)。そう考えると順番に発表した方が良かったのかな、と少し後悔。

 またこの頃、中国の毒野菜が問題になっていた時期なので、面白いと思ってそれもネタに取り入れたのだが、毎日新聞という媒体上もしかしたらヤバいかも?  とも思っていた。月間賞を戴いたという経緯から、どうやらそれは杞憂だったようだが。

 感想文を読み返しながらプレイを思い出してみたが、その反芻作業でさえ楽しかった。こういったベタに素朴な、それでいて心に残るゲームを、またやってみたいものだと思う。


[追記]
 今確認したところ、この『アストロノーカ』はPS3PSPの場合、600円でDLプレイができるそうだ。興味を持たれた方は、是非このゲームに触れてみて欲しい。



 プレイ動画を見つけたので追加。


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