【早期参加しても無駄】 次々明らかになるTPPの問題点 【TPPについて(その3)】

 さて、TPP問題について考える第3回目。ややこしい上にこの軽薄なブログの方針と合わないなどの理由なのでしょうか、普段のエントリーと比べると閲覧数や訪問数が圧倒的に少ないTPPの話題ですが、乗りかかった船なのでもうちょっと検証してみます。今月8日からハワイで開催されるAPEC直前の、ここ数日の世論がとても大事な政治問題だと思いますし。


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 今回は「非関税障壁の撤廃」問題について述べる予定だったのですが、前回触れた米韓FTAの新たな情報があったので紹介したいと思います。前回までに発覚していた分でも相当の奴隷条項だった米韓FTAですが、これを見ると本当に宗主国と属国の関係としか表現のしようが無い、恐るべき不平等条項だというのが良く分かります。

米自動車業界の意向を飲まされた韓国の教訓

米韓FTAが発効してもすぐには関税率が下がらない。乗用車は韓国側が主張した「関税の即時撤廃」が「5年後撤廃」になり、商用車については「米側は10年目に撤廃。韓国側は現行10%の関税を即時撤廃」になった。

しかも、米側には「自動車に限定したセーフガード(緊急輸入制限)条項」が付いた。

米国車に対し韓国国内で協定違反があった場合、「米側は韓国メーカーに関税を2億ドル課することができる」ようになった。

日本は韓国が米・EUとの間で実現できなかったことを検証し、これから始まる交渉ではより有利な条件を引き出すことを心がけていくべきだ。

赤字青字は引用者。日本経済新聞のリンクは割愛)


 韓国側はわずか2.5%の自動車関税を撤廃するために、農業を含む他の分野で様々な譲歩をした訳ですが、前回のエントリーで取り上げたスナップバック(Snap-back)条項で触れたとおり、それを簡単に覆す権利をアメリカ側が保持しています。引用記事の赤字部分では、さらにこの米韓FTAアメリカ有利であったことを示しています。ここまで苛烈な不平等は凄まじい。すぐ撤廃されると思っていた関税が5年後まで維持されるとか、商用車は韓国側の関税は即時撤廃、アメリカ側は10年維持するという信じがたい一方的な片務条項。


 日本は20世紀初頭、日清戦争治外法権の撤廃を、日露戦争関税自主権を獲得しました。2度の戦争の勝利を持ってして、ようやく当時の欧米列強に対してまともに自国の法律で外国人を取り締まったり、外国から入って来る商品に関税を掛ける権利を獲得したのです。つまりこの2つの権利は、他国と付き合う上での国家の最低限の権利なのです。その大事な2つの権利を、韓国は一方的にアメリカに差し出すことを決めた訳です。国会で批准されれば、韓国はもうどうやってもこの権利は取り戻せないでしょう。アメリカに戦争で勝たない限りは今後永久に。


 そしてこの韓国の姿は、TPPに熱心な野田佳彦という首相を抱える日本の明日の姿になるのかも知れません。韓国を他山の石にすべきだというのに。



 上記記事を書いた日経新聞は、これまでさんざん「韓国は経済が好調だ」だの「日本企業は韓国企業に見習え」だの「米韓FTAを締結する韓国に負けないよう、TPPを推進するべきだ」などと煽ってきました。日経新聞はTPP推進派の最右翼の日本経団連の機関紙だからです。

 その反省もなく、米韓FTAにおける韓国の大失敗を教訓に、TPPで有利な交渉をするべきとか眠たいことを抜かすのが、最後の青字の部分なのです。韓国を本当の意味で教訓にするなら、TPPに反対するべきなのに。



 しかもTPPに早期に参加する理由として推進派が挙げていた「ルール作りの段階から参加しておかないと、既存のメンバーが決めたルールに従わねばならず、日本は不利になる」という主張がもはや崩れていることが明らかになりました。

TPPルール 主張困難 米「参加承認に半年」
2011年11月2日 07時03分

 環太平洋連携協定(TPP)交渉について、米通商代表部(USTR)の高官が、日本の参加を認めるには米政府・議会の非公式な事前協議が必要で、参加決定に時間がかかるため「受け入れが困難になりつつある」との認識を示していたことが、日本政府の内部文書で分かった。正式協議を合わせると米議会の参加承認を得るのには半年間程度が必要な見込みで、早期参加表明しても来夏にまとまる予定のルール策定作業に実質的に加われない可能性も出てきた。

 日本に有利な条件を得るため早い参加が必要、というTPP推進派の主張の前提条件が崩れかねない状況だ。

(後略)

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2011110290070328.html

赤字は引用者)


 上記記事を易しくまとめると、日本が現時点で参加表明したとしても参加には米議会の承認が必要で、その承認には半年という時間が必要となります。ですがTPPルール策定作業は来年夏スタートですので、その相当前にはルール作りも終わり、内部ルールが確定するという訳です。つまり日本はルール作りには一切参加できず、決められたルールを押しつけられるだけということになりそうだということです。

 日本政府の内部文書で発覚したということですが、日本政府に向けて内々にこういう意向を打診する段階で、アメリカには日本をルール作りに参加させる気が無いというのは明らかです。



 TPP参加国の構成を考えてみましょう。アメリカ以外はシンガポールニュージーランド、チリ、ブルネイ、ペルー、ベトナム、マレーシア、オーストラリアの8カ国。

 日本を入れて10カ国でその経済規模を比較してみると、アメリカが全体の7割、日本が2割、残りの8カ国で残りの1割と、圧倒的に日米の比率が高いのです。



 小国ならこのTPPという形態でも有利な1分野さえあればアメリカに対抗できます。例えばシンガポールは金融、ニュージーランドは食肉を始めとした農業という得意分野でそれぞれアメリカと対抗できますが、多様なジャンルでアメリカと競合する国はそういう訳にも行きません。この参加(予定)国で狙い撃ちされるのがその唯一の大国、日本なのです。

 これら参加国の顔ぶれを見ても、日本がその輸出品を売り込める国が、実質アメリカ1国であることが明白です。つまりアメリカとの2国間FTAとほぼ同じということです。関税が撤廃される自動車、電気製品分野以外は壊滅的打撃を受けるでしょう(経団連がTPPを推進し、JA全中がTPPに反対する理由)。その両分野も、アメリカとFTAを結んだ韓国の実情を見てみると、果たして有利になるのかどうかは分かりません。



 今から参加表明しても、もうルール作りには参加できないということは、焦って参加表明するのは何の得にもならないということです。むしろ、参加してみたら既存参加国以外には不利なルールが完成している可能性が高く、参加しない方が日本にとって有利に働く可能性も十分考えられます。

 少なくとも、じっくりと参加するメリット、デメリットを国会など各機関で協議する時間を持つべきでしょう。今あわてて参加するメリットはもう無くなったのですから(TPP推進派のウソがバレたとも言えますが)。



 次回は今回考察できなかった「非関税障壁の撤廃」問題について考えてみたいと思います(出来ればAPECまでに)。



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