日本は米韓FTAにおける毒素条項を他山の石にすべし 【TPPについて(その2)】
前回に引き続き、TPPについて考えて行きます。
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TPPの問題点を考慮するのに、格好の反面教師がすぐそばにいました。それはアメリカとの2国間自由貿易協定(FTA)を締結しようとしている韓国です。このFTAに描かれた各種条項が、一方的、片務的であり、韓国に対する奴隷条項とまで言われている現状が、果たしてどれだけきちんとした形で報道されたでしょうか?
政府もマスコミも、「韓国経済は絶好調、アメリカとFTAを結んでさらに日本企業は苦境に立たされる。日本はTPPに参加しないと、完全に出遅れてしまう」といった論説しか流していないと思います。そこで今回は韓国の存在を他山の石とすべく、この米韓FTAの内容を確認してみましょう。
まずはその問題のマスコミの論調から。
- 産経新聞より引用
韓国、FTA攻勢で「経済領土」拡大 日本は競争条件で不利に
2011.11.1 08:30韓国が自由貿易協定(FTA)を積極的に推進し、「経済領土」を拡大し続けている。経済領土とは、FTAを締結した相手国・地域の国内総生産(GDP)の合計が世界全体のGDPに占める比率のことだ。(フジサンケイビジネスアイ)
韓国の朝鮮日報によると、米国が批准手続きを済ませている米韓FTAを含めると、韓国の経済領土は約61%となり、チリ、メキシコに次いで世界3位に躍進する。日本の経済領土は約17%で韓国に大きく水をあけられている。
(中略)
同一の市場に対して、FTAを結んでいる国と結んでいない国が競争した場合、FTAを結んでいる国が有利になる。
例えば、日本企業が欧州市場で韓国企業と競争する場合、韓国は無関税で欧州に部品や製品を輸出できるが、日本製の部品や製品には関税がかかる。このため日本製品が割高となる。
しかし、日本企業はEU域内に生産拠点を移すことで、韓国企業に対抗することができる。FTAの「蚊帳の外」で損失を被るのは日本にとどまる企業や国内の雇用だ。
日本では「環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)」参加可否への決断が差し迫った政策課題となっている。TPPが実現すれば、実質的に米国とFTAを結んだのに等しい効果が期待される。TPPへの参加が遅れれば、他の参加国に対して相対的に不利な貿易条件を負うことになる。日本政府に残された時間は少ない。 (ソウル支局)
(赤字・青字は引用者)
赤字部分で読者をかなりリードしていますね(ミスリードでなければ良いのですけど)。そして青字部分に正直な思惑が出ています。TPPに参加しさえすれば韓国に対抗できる、参加しなければ日本は衰亡してしまうとして思考停止を煽る、TPP推進派の典型的論調です。参加することが、いつの間にか日本の国家存続における最低限の条件の様な書き方になっています。
この記事を書いた記者によるとTPPに参加する効果はFTA締結に等しいらしいので、この記事では全く触れられていない、米韓FTAの条項について具体的に検証してみましょう。
- 韓米FTAの奴隷条項
- サービス市場は記載した例外以外全面開放
- 牛肉はいかなる場合であっても輸入禁止処置は行わない
- 他の国とFTAを結んだら、そのFTAの有利な条件をアメリカにも与える
- 自動車の売上が下がったらアメリカのみ関税復活出来る
- 韓国の政策で損害を出したら米国で裁判する
- アメリカ企業が思うように利益を得られなかったらアメリカ政府が韓国を提訴する
- 韓国が規制の証明をできないなら市場開放の追加措置
- 米国企業にはアメリカの法律を適用する
- 韓国はアメリカに知的財産権の管理を委託する
- 公企業を民営化
ひとつずつ検証してみましょう。
- 1は「サービス・マーケットのネガティブ方式開放」と言われ、明示された「非開放分野」以外は全てが開放されます。つまり例外として明記されない全ての分野は全面的に開放され、アメリカとの自由競争にさらされるということです。
- 2は不平等の代表例。これはラチェット(Ratchet)条項といい、一度決めた開放水準は後で不都合があったとしても逆戻り出来ないという恐るべき条項なのです。一度規制を緩和するとどんなことがあっても元に戻せないので、例えアメリカ牛に狂牛病が発生したとしても牛肉の輸入を中断できなくなるのです。ちなみに“ratchet”とは一方向だけに回転し反対方向には回転できない歯車のこと。
- 3は「未来の最恵国待遇(Future most-favored-nation treatment)」と言われるもの。今後、韓国が他の国とFTAを締結した場合、その条件がアメリカに対する条件よりも有利な場合は、アメリカにも同じ条件を適用するという条項です。 つまり他国に対しより良い条件でFTAを結んだ場合、協議なしでその「より良い条件」が自動的にアメリカに対しても上書き締結されるということです。これは韓国だけに課せられる義務で、ものすごくアメリカだけに有利な条項。
- 4はスナップバック(Snap-back)と言われる条項。自動車分野で韓国が協定に違反した場合、または米国製自動車の販売・流通に深刻な影響を及ぼすと米企業が判断した場合、米の自動車輸入関税2.5%撤廃を無効にするというもの。 アメリカ側が勝手に判断できるというところがすごいです。韓国がこれだけ譲歩してやっと獲得した関税の撤廃も、米自動車企業に深刻な影響を与えると(第3者ではなく当事者の)アメリカ側が判断した場合はいつでも反故に出来るのです。
- 5は投資家保護条項(ISD条項:Investor-State Dispute Settlement)と呼ばれるもので、韓国に投資した企業が、韓国の政策変更によって損害を被った場合、世界銀行傘下の国際投資紛争仲裁センターに提訴できるというもの。しかもこの条項は韓国にだけ適用されます。 韓国側だけが提訴されるというのはどう考えても不平等極まりないものでしょう。
- 6はNVC条項(Non-Violation Complaint)と呼ばれるもので、米国企業が期待した利益を得られなかった場合、韓国がFTAに違反していなくても、米国政府が米国企業の代わりに、国際機関に対して韓国を提訴できるというもの。違反していなくてもアメリカ様の企業の思い通りにならない場合は提訴されてしまうって、空恐ろしい想像しか思いつきません。これはアメリカの保険会社が国民皆保険制度の韓国で商売が出来ない場合、アメリカ政府を介して韓国の国民皆保険制度見直しに干渉できるという展開もあり得ます。これは韓国と同じく国民皆保険制度の日本も他人事ではありません。
- 7は韓国政府が規制の必要性を立証できない場合は、市場開放のための追加措置を取る必要が生じるというもの(政府の立証責任)で、その規制が必要不可欠であることを韓国側が「科学的に」立証できない限りは無条件で開放しないといけないものです。アメリカがすることは押し付けて、証明させるだけ。証明できなければ追加措置が強要されます。韓国は今のところコメの輸入に関しては例外規定に入れていますが、これもそのうち立証責任を求められ、突き破られてしまうのではないかと懸念されています。
- 8はFTAが韓国国内法に優越するという意味で、紛れもなく治外法権そのもの。企業だけでなくアメリカ人に対しても同様、韓国国内法よりFTAが優先的に適用されます(間接受容による損失補償)。逆にアメリカ国内では米国法が優先されるといいますから、どう見ても不平等条項ですね。
- 9は違法ダウンロードやコピー商品が蔓延する発展途上国対策をそのまま韓国にも適用したものなのでしょう。韓国も違法ダウンロードやコピー商品が蔓延する著作権侵害国家なのですから、この措置はやむを得ないところがあります。ただ韓国に対する知的財産権の取り締まりをアメリカが直接行使出来るというのも、完全に治外法権です(知的財産権直接規制)。
- 10に関しては普通に主権の侵害で、韓国側に利点は無いでしょう。よく考えてみれば1から10まで全てが主権の侵害で、韓国は今度はアメリカの植民地になることを自ら選んだと言えるでしょう。
これほどまでの屈辱的な条項を受け入れてでも関税を撤廃して輸出を伸ばしたいというのが韓国政府の思惑なのでしょうが、実は韓国が輸出している工業製品における米国の関税は、すでにかなり低い水準なのです(対米主要輸出商品である自動車は2.5%、テレビは5%程度)。
韓国はたったこれだけの関税を撤廃する為に、主権まで放棄して奴隷となったようなものです。さらに自動車に関しては上記4のスナップバック条項で、いつでも無効に出来る権利をアメリカは有しています。
そして韓国は自動車も電気電子製品もすでに米国における現地生産を進めていますから、関税の存在は企業競争力とは殆ど関係がないという指摘もあります。これは日本にもまったく当て嵌まる指摘です。
政府間協議で合意に達した今回の李明博大統領の訪米を、オバマ大統領は国賓として遇し歓迎しましたが、これだけの奴隷条項を飲んでくれるのですから、そりゃ持ち上げもしますよ。カモがネギ背負ってやって来たのですから、鍋の中に入るまでは大歓迎を装うでしょう。
ちなみにその時の歓迎の晩餐会で、わざとなのかどうか分からないのですが、メニューに朝鮮料理ではなく日本料理が出され、韓国人は大いに自尊心を傷つけられたそうですが。
オバマはこの米韓FTAで7万人の雇用を創出すると宣言しました。つまりこれは韓国人が数万人失業するのと表裏一体の発言でしょう。この米韓FTA、すでにアメリカ議会では批准され、あとは韓国国会の結論待ち。さらにご丁寧なことに、一度国会で批准されると再協議は出来ないということまで決められています(再協議禁止)。
アメリカのしたたかさが感じられる米韓FTAの真相なのですが、ただこれだけの不平等条約を結んだ韓国ですら、TPPに関しては4〜5年かけて議論した末に不参加を決めたのです(アメリカやEUなどと各個FTAの方を選択)。ということはTPPはさらに不平等になる可能性があると見なすのが、賢い隣人観察なのではないでしょうか?
民団から献金を受け取り、700億ドルものスワップ拡大で韓国を盲目的に救う野田佳彦首相に、果たして韓国の行く末を見極めるだけの眼力があるのかと問われれば、「ない」と答えざるを得ないのが辛いところですが。
次回は今回の米韓FTAでも明らかになった、「非関税障壁の撤廃」問題について考えてみます。これがTPPの最大の問題点だと思えるものだからです。TPPにおける「非関税障壁の撤廃」にも、上記のラチェット条項やISD条項などが含まれています。これらが日本にとってどれだけ大変な事態なのか、韓国の様子をよく見て考える良い機会だと思います。
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