『最終電車』の感想 【設定優良・恐怖系サウンドノベル】

 ありがたいことに、当ブログのページビュー(PV)がいつの間にか100万を超えていた。ブログ開設から1年7ヶ月ほどでこの数字は開始時には想像もつかないもので、初めの頃は1日20PVほどで、そのうち10PVは自分自身のアクセスだったりしたこのブログが今も続いているのは、ひとえに見に来てくださる方々のおかげだと感謝の念に堪えない。


 さて今週は連載しているアニメが1本お休みで少し余裕が出来たので、久しぶりにゲームの感想文を書きたい。前回のゲーム感想から5ヶ月以上経過してるのは我ながらその怠慢さに驚いたが、ゲーム感想文はいつものアニメ感想分と比較して、冗談抜きで2桁閲覧数が少ないという深刻な現象がある。言わばモチベーションを上げるのが難しいのだ。

 さらにゲーム感想文は、ゲームをプレイして、終わらせてという前準備が時間的にも労力的にも馬鹿にならない。見てくれる人の多寡でモチベーションが変わるブロガー的には、その苦労に見合わないというのも辛いところではある。文章的にも同じように手を抜かず書いてるつもりなのだけど……。ゲームはそれを遊んで楽しみを共有していないとその辺を理解してもらうのも難しいというのが真相だろう。


 グチは置いといて、そろそろ本題。

 今回は【積みゲーを少しずつ消化していこう企画第3弾】として、プレイステーションサウンドノベル『最終電車』の感想を書きたい。最初の発売日が1998年、14年前とかなり古いゲームなのだが、サウンドノベルという題材的に、この時代にはほぼ確立されていたジャンルとして古さはあまり意識しなかった。

 また怖い系のゲームであり、これから暑くなる季節的にも合致するんじゃないかと思い、今回の選択と相成った。ホラーゲームはいろいろと積みゲーが多いので、今年の夏に何本か消化できたらいいなと思っている。


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終電車

発売日 1998年02月26日

メーカー ヴィジット

価格 5800円(廉価版 840円)

対応ハード プレイステーション

甘茶
ベタな王道サウンドノベルながら、シチュエーション設定は秀逸(書き下ろし)


 このゲームはテレビ画面に小説形式の文章と効果音を含む音楽を交えて表現するサウンドノベルというジャンルだ。『弟切草』や『かまいたちの夜』などが代表的な作品として有名だろう。「サウンドノベル」という表現はこのジャンルの開発社のスパイクチュンソフト(旧チュンソフト)の商標らしく、本作は「ヴィジットハイパーノベル」という名称で頒布されたらしい。開発元のヴィジットはこのタイプのゲームを8作出すが、本作はその2本目に当たる。


 物語の主人公が仕事の帰りにいつも飛び乗る最終電車。だがその日は様子が違っていた。自分の降りる駅で電車が止まらなかったのだ。最終電車は各駅停車のはずなのに……。プレイヤーはその主人公になりきり、この止まらない最終電車の謎に挑む。


 いつも乗っている電車が自分の知るものと違っていたら……という身近な世界観をテーマに恐怖を喚起する設定はなかなか面白い。乗り合わせた何人かの乗客と協力し合い、もしくは対立を繰り返し、何らかの結末を求めてストーリーを展開するのがプレイヤーの役割だ。


 日常よく利用する電車内という舞台設定がやはり秀逸だ。高速で走る電車は一種の密室で、しかも前後にしか移動できないというかなり限定された空間で、何か起こっても逃げ出す場所が限られる。身を隠す場所すらない訳だし、窓から外に飛び出すという選択肢も封じられている。これはかなり怖い設定だと言えるだろう。


           


 グラフィックも1998年当時にしては美麗で、電車内の描写は今見ても遜色ない。写真取り込みでなくフルCGで描かれているというのも驚き。電車の揺れやその他制動などの表現もそれらしく見えるよう頑張っている(つり革が揺れたり)。『かまいたち』でも知られる水色シルエットは登場人物全員が同じ色で見分けがつかない場面もあったが、まぁ許容範囲。

 電車の効果音に関しても良い。暗闇を規則的に刻む線路の継ぎ目を踏む車輪の音とか、連結器を結ぶ扉を開く音とか、ちょいネタバレだけどガラスの割れる音とか、臨場感があった。逆に普段流れるBGMの類が種類が少なく、緊迫シーンにはいつも同じ曲というのがやや物足りなかった。


 本道はやはりホラーやサスペンス調な展開になるのだが、選択肢で分岐するストーリーによってはラブロマンスものになったり、ギャグ系のオチに至るルートなど、20種類ほどある別展開も楽しむことができる。

 電車の路線図をもじったシナリオチャートがあり、それによって大体どのシナリオに向かうのかも分かりやすく、親切な設計になっている。選択肢ごとにセーブすることもでき(一部例外あり)、再開するのも容易だ。

 ただそのストーリー分岐に繋がる選択肢以外はほぼ即死する選択肢だったりして、その辺が不満ではある。分岐する部分を探す作業プレーを強いられている印象をどうしても感じてしまうのだ。

 また一つ一つのシナリオも、そう長いものではない。これに関しては善し悪しだろう。ボリューム不足に不満を抱くか、手軽にプレイできる取っ付きやすさを取るかの差だと思う。個人的には種類が多い分、納得の内容だったと感じる。『かまいたち』のボリュームを期待するとかなり物足りないだろうとは思うが、あれはあの長さでダレさせない『かまいたち』が秀逸すぎる訳で。ほぼ電車の中に限定された本作ではこの長さがちょうど良いとも思える。
 

 あと全てのシナリオをクリアすると、おまけの後日談的なシナリオを読めるのだが、これは1回こっきりしか読めない。本作の内容自体をパロディにしたような文章で興味深く面白い試みなのだけど、一度しか読めないのは残念だと思う。当然その間はセーブできないし。


 他に目に付いた不満点を挙げてみよう。既読スキップができないことは、この手のゲームでは結構煩わしい。1シナリオがやや短めなことが逆にこの場合、長所として作用しているのが皮肉に思えるほど。

 また本作はムービーが結構流れてそれ自体は良いのだが、それもスキップ不可。何度も同じルートを通って分岐条件を探すに当たり、これも既読スキップできないのと同じストレスをこちらに与える。車中で童謡が聞こえてくるという怖いシーンがあるのだけど、それも2度目以降も最後まで聞かされるというのはキツイ(ネタバレ申し訳ない)。

 ギャグ編も幾つかあるのだけど、それがイマイチ笑えない。怖い話の合間に、緊張と緩和的に盛り込んだ形式は『かまいたち』などでおなじみだけど、やはりそれ単独で読んでも楽しめる内容にして欲しかったなぁというのが正直なところ。『かまいたち』のピンク栞(しおり)のように、お色気路線で行っても良かったような気がする。


 ただ繰り返すが、本作は14年前発売というかなり古いゲームだ。不満点は多々あれど、基本的な面白さは評価したいし、出来自体も悪くない。即死しやすいけど直前にセーブしておけばリカバーも楽だし、全シナリオ走破もそう大変な作業ではない。細かく念入りにプレイしても10時間は掛からないと思われる。値段によっては十分に満足できる内容だと思う。


 プレステのゲームが遊べるハードが減少しつつある現状ではあるが、840円の廉価版よりも安い値段で見かけることがあれば、試してみるのも良いと思われる。サウンドノベル好きなら十分その値段の元は取れることだろう。

 なお本作はプレステ2でリメイク版が発売されている。シナリオがひとつ増えただけであとは同じ内容とのことなので、本作をプレイした人にはお勧めできないが、両方未プレイならそちらでプレイするのも手だろう。

【追記動画】

 本作のオープニング動画を見つけたので追加。怖いシーンは一切なく、言わば嵐の前の静けさ的な情景。ただその不気味な雰囲気だけでも味わってみて欲しい。登場人物たちの姿をシルエット以外で見ることができるのは、実はこのオープニングの時だけ。



 余談ですが、本作のシナリオを書かれた大迫純一氏は大ヒットのニンテンドーDSの恋愛ゲーム『ラブプラス』などを手がけられたことで有名。小説家や漫画家としても活躍されていました。ただ残念なことに、いまからほぼ2年前の2010年5月25日、ガンにより他界されました。まだ47歳の若さだったということです。

 ゲームシナリオとしては、本作の続編的作品の『19時03分 上野発夜光列車』、『大幽霊屋敷 〜浜村淳の実話怪談〜』と恐怖系ノベルゲームのシナリオを、同じくサウンドノベル『ノベルズ〜ゲームセンターあらしR〜』では作画を担当されたそうです。

 このゲームを暇な時間に一気に終わらせ、感想を書くと決めたときは上記の事情は全然知りませんでした。何となく運命的な気持ちに至ってしまいます。大迫さんのご冥福をお祈りします。


 本作を製作したヴィジットという会社は感想文中に書いたように、これ以外にも8作のノベル系ゲームを輩出しているようです。機会があればプレイして、感想も書きたいですね。大きな会社ではなかった分、レア感があるらしくって入手がやや困難になって来ていますが……。



【追記】
 ヴィジットは現在は通信サービス関連の会社に華麗な転身を遂げ、ゲームを作っていたことなど無かったかのように会社の概要からも抹消されています。この黒歴史感。まるでかつてのバカゲーメーカー・ビック東海のようなやり口に腹を抱えて大笑い……もとい、残念でならないのですが、またゲーム作ってくれないかなぁ? 技術力はあったと思うので、惜しい。

 ヴィジットさん、通信サービス会社を装っていても、私たちは貴社がこんなゲームを作っていたことを決して忘れないよ! 若気の至りをしつこく覚えているような行為だけど、嫌がらせじゃないよ!



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