なつやすみの想い出 『ディグダグ』と友人Sのお話 【ナムコミュージアム Vol.3収録作品】

 大人の皆さんは3連休でウハウハだけど、ちょっと冷静になって横を見ると世間のお子様たちはそんな3連休など鼻で笑う長期休暇「夏休み」に間もなく突入する。とても悔しいので、そんな悔しい気持ちを紛らわせるためにも、自分の子供の頃の夏休み話に逃避したい。ちょうど小さかった頃の想い出としてゲームにまつわるお話が【ゲームクエスト】投稿作の中に残っていたので、ここで紹介したいと思う。


 久しぶりのゲーム感想文の紹介として、タイミングも良いと思われる。当方にとっての『ぼくのなつやすみ』的物語なのだ。『ぼくのなつやすみ』と違って、全く感動的な部分は無いんだけどね。笑って読んで頂ければ幸いである。

 結構文章がボロボロで誤字や変換ミスも多かったので、大幅に加筆修正しているが、その辺は容赦されたし。また個人情報に繋がりかねない部分も、念のため余分に修正している。


甘茶さん の「ナムコミュージアム Vol.3」 (プレイステーション)
同級生の超絶プレーをもう一度
 甘茶さんは、「ディグダグ」と子供時代の思い出をまとめた80年代のゲーム文化を感じさせる感想です。ゲームのプレーが上手なことは立派な「特技」だったというわけですね。それにしても30円で一日遊ばせるなんてすごすぎる……。

甘茶
同級生の超絶プレーをもう一度(2008.08.07)

 収録作品の中で、個人的に一番入れ込んでプレイしたゲームは『ドルアーガの塔』であった。ただ『ドルアーガ』に関しては、当時入れ込んだ割にあまり面白いエピソードが無い事に気付いた。そこで、暑い季節が来るたび思い出す『ディグダグ』にまつわる当方の昔話を聞いて頂きたい。

 
 当方が純真無垢な子供の頃、近所の駄菓子屋には30円で遊べるアーケードタイプの古いゲーム筐体が幾つか置いてあった。夏休みになると朝から子供達が集い群がり、当方も6〜7人の同学年の仲間と自然発生的に成立したコミュニティを組んでいた。

 その中に、勉強は全然駄目、スポーツも得意じゃない、かといって面白い事を言える訳でもない、不良ではないがちょっと斜に構えたとんがった態度とヒョロッと高い身長以外何の特徴も無いSという隣のクラスの奴がいた。

 だが何の取り柄も無さそうなそのSが、我々のコミュニティでは中心的立場にいた。当時すでに時代遅れながら我々の間で流行っていた『ディグダグ』が滅法上手かったのだ。本当に神憑かり的に上手く、例えばスコアが100万点でカンスト(カウンターストップ)して0点に戻るといった事は、Sのプレイを見て始めて知った程だった(我々凡人は100万点などマークした事など無かった)。

 他にもファイガ(火を吐く恐竜)よりプーカ(メガネの地底人)の方が本当は手強いといった実践的な話をしてくれるかと思えば、画面一番上(地上と言っていた)の左から2キャラ目をちょっと掘っておくと逃げる敵が一瞬ずり落ちるといった、攻略とは関係ないどうでもいいディグダグトリビアを聞いてもいないのに教えてくれたりした。

 いっぱしの理論をほざくので他のゲームもさぞかしと思いきや、『ディグダグ』以外はさほど上手くなかったというのがどうにも理解不能なのだが、逆にそれだけ気に入って入れ込んでいたのだろうとも思える。

 逆説的に評すれば、Sは『ディグダグ』に依ってのみコミュニティでの立場のある人物、なのであった。


 そんな具合だから、我ら凡人がプレイしていて残り自機が1人になったら、麻雀の代打ちを頼むかのようにSにプレイを任せ、超絶プレイで自機の残り人数を増やして貰うのであった。確か7万点おきに自機がワンアップする仕様だったと思う。

 自機増加何人かにつき10円の計算で報酬を与えるのがいつの間にか決まり事になっていて、報酬に原色バリバリのチューペットもどきや原材料不明の得体の知れないゼリーなどの体に悪そうな10円駄菓子をくれてやると、Sはとんがった態度で「こんなんいらねー」とか言いながらも嬉しそうにしていた。それは言い分通り報酬を貰った事に満足していたのではなく、このコミュニティで自分は必要不可欠な人間であるといった事を実感し、虚栄心を満たせていたからであろう。

 
 ところが夏休みも後半に差しかかった時、事情が変わった。たった30円で一日中遊ばれる事に堪忍袋の緒が切れたらしい駄菓子屋のオババが『ディグダグ』の筐体に「Sは遊んではいけません!!」という無茶な貼り紙をしていたのだ。Sへの報酬の為に我々が買い物して少額ながら店にお金を落としている事には気付いていなかったのだろうか。

 どう考えても大人気(おとなげ)ない対応だが、当事者意識の無い我々はそれを見て、貼り紙という強行手段にも笑ったが、それ以上に何故かオババがSの固有名詞を知っていたという事実がオモロくてオモロくて、腹を抱えて笑い転げた。おそらく『ディグダグ』プレイ時、みんながSを頼るので、その時に子供たちの会話から名前を覚えてしまったのだろうと推測される。


 この話は当方にとっての「すべらない話」で、ゲーム好きの友人ができる度にこの話をして、すべり知らずに笑いを取って来たのだが、実は笑い話の中ではしなかった、その後の話がある。


 貼り紙を見て笑わなかった人物が1人。もちろん当事者のSだ。気遣いなど出来ないクソガキであった当時の我々は、駄菓子屋のオババを嘲笑したのと同様にSの事も随分揶揄してしまった。普段のSのとんがった態度からして、これくらいで凹むタイプではないと無意識に楽観していたのだろう。

 イジメというのは、こういった何気ない事がきっかけで起こるものなのかも知れないと、今にして思う。繰り返しになるが、コミュニティにおけるSのレゾンデートルは『ディグダグ』なのであった。それが失われた時、彼がこのコミュニティを去るのは無理からぬ事なのである。

 貼り紙事件後のSは、『ディグダグ』で遊ぶ我々の後ろで所在なげにしていた。それでもしばらくは顔を出していたのだが、夏休みが終わる頃にはコミュニティから消えてしまい、学校でのクラスも違っていた当方とSとはそのまま没交渉となってしまった。


 
 改めて当時を振り返ってみて、この昔話は当初考えていたより含蓄深い出来事に思える。学校での勉強やスポーツなどで目立たないタイプの人間がゲームで報われるという事があったのだ。

 『ナムコミュージアム Vol.3』で『ディグダグ』を家庭で気軽に遊べる環境の現在、ふと思う。駄菓子屋の意地悪オババにも、当時の自分を含む、空気の読めないクソガキ共にも邪魔される事のないこんな環境下で、またSと一緒に『ディグダグ』をプレイしてみたい。もう一度Sのあの超絶とも言える神業プレイを見て心底驚愕して、Sに花を持たせてあげたいと……、そう思うのである。

 当時の駄菓子屋は子供たちの社交場だった。他のクラスの子と交流を持ったり、さらには別の学校の子供たちと仲良くなる事も多々あった。習い事や塾などと同じ役割を果たしていたのだ。

 駄菓子屋は時代遅れのゲームがお得価格で目白押しで、毎日遊びに行っても飽きる事が無かった。本文中でオババの事を悪く書いたが(実際にこの程度では書き足りないぐらい悪辣で強欲な因業オババだったが)、大人がいる事でゲームセンターの様に不良のたまり場にもならず、子供たちが安心して過ごせる空間だった点は感謝している。

 それら当方の子供の頃の体験記は、ちょっと違うが、押切蓮介の描くマンガ「ピコピコ少年」の世界観に近い。読むたびに、あの駄菓子屋での想い出が呼び覚まされる。ちょっと不思議で、でもお気に入りの感覚に浸れる。そういった感覚も相まって、当方の愛読書となっている。

 ゾルゲ市蔵の「8bit年代記」も、時代がずれるがほぼ同じ雰囲気を共有している。これもとても面白く読む事ができるマンガだ。『サンダーフォース6』製作で大批判されているゾルゲ氏だけど、マンガは素直に面白いよ(ゾルゲ氏はマンガ家にしてゲームクリエイターゲームクリエイターの時は岡野哲、ゾルゲール哲名義)。

【追記】
 『サンダーフォース6』に関しては当ブログにリンクして下さっているおかもろ(再)さんの詳細な感想もあります。興味がおありであればご覧になってみて下さい。

 Sとはその時以来没交渉で、今どこでどうしているかも分からない。きっとそれは向こうも同じだろう。いや『ディグダグ』という強烈に記憶に残る特技が無い分、向こうの方は当方の事を完璧に忘れていて、一方通行の記憶になってしまっている可能性が高い気もする。

 全国のSさん。もしこの文章を読んで自分だと思ったら、連絡して欲しい。『ディグダグ』やろうぜ。こんな特殊な体験、本人しかあり得ないと思うし(笑)。



       
 当時のポスター。実物は見た事が無かったけど、こうだったらしい。緑の火を吹く恐竜が「ファイガ」、赤のゴーグルの丸こいのが「プーカ」。



            
 徹子の部屋」に出演したプーカさん(左)。持ち前の雰囲気で黒柳徹子をも圧倒した。ちなみにトットちゃんクラスでなければ、威圧死させられるほどのレベル。




 動画。懐かしい音楽にウットリしてしまう。



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